2008年 05月 11日
久しぶりに、ああおもしろいと、ちょっと離れたクライアントへの往復でイッキに読んだ。ようやく図書館から順番が回ってきた、三浦しをんの『仏果を得ず』(双葉社 2007年11月刊) である。 ひとことでいえば、文楽の研修所出身の大夫・笹本健が、相方の三味線の鷺澤兎一郎とのコンビに悩みつつ、修行に励む成長物語。幕間に、三浦しをん流の作品解説あり、女大夫をめざそうと張り切る小学生・ミラちゃんの母親との恋あり、文楽の楽屋の見聞記もふんだんに織りまぜ、大夫たちの日常が見える、文楽ファンにはこたえられない(そして、文楽がちっともわからないひとにとってもすこぶる興味をそそられる)小説なのだった。 『仏果を得ず』というのは、『仮名手本忠臣蔵』六段目の、主君のイザという場面でお軽と密会して居合わせず、敵討ちの仲間に加わるための金策の過程で義父を殺してしまったというカンチガイで切腹してしまうオバカな勘平が、死に際、金色に輝く仏果などいらない、生きて生き抜くのだとさけず場面、「やァ仏果とは穢らはし。死なぬ、死なぬ。魂魄この土に止まつて、敵討ちの御供する」と絶叫するところから来ている。健は、忠臣蔵は忠義を説いたものではなく、カッコ悪くも生きることを貫こうとした、忠義に翻弄されるひとの心の苦しみと葛藤を描いたものだと、その魂の叫びを義太夫にのせて語るのだ。 読みながら、ここ3年ぐらいのにわか文楽ファンのワタシは、健の師匠の銀大夫のシーンとなると住大夫を思い浮かべ、健は咲甫大夫をグット若くして、ヤンチャなところを加えたら雰囲気かなぁ、兎一郎の響きは・・・などあれこれ想像を巡らしとても楽しかった。 『女殺油地獄』の与兵衛の足を担当する十吾が、女にもてそうなヤンキーを参考にした、なんて語る場面もホホォとうなった。大夫と三味線の駆け引きなど、とーってもスリリングだ。 今度は人形遣いの話が読みたいなぁ。 写真は、いま国立劇場でやっている公演ポスターの一部。人形とどうしてあんなに色っぽいのか。生きているようなのか。
by sustena
| 2008-05-11 08:33
| 読んだ本のこと
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