2008年 03月 01日
サイモン・マクバーニーの「春琴」は、谷崎潤一郎の耽美的な小説『春琴抄』と『陰翳礼讃』をもとに、闇を失った現在と、19世紀の大阪とを重ね合わせながら、男女の陰影を見つめた舞台だ。 物語は、不倫の恋に悩むナレーター(立石涼子)が、録音スタジオで谷崎の「春琴抄」を朗読するところから始まる。 薬種商鵙屋の娘春琴は、9歳の時に失明して以来、琴三弦の稽古にはげみ、琴の師匠となる。奉公人の佐助は、春琴の手をひき、なにくれとなく春琴の世話をやく。佐助(チョウソンハ、高田恵篤、ヨシ笈田へ)は、春琴から琴の手ほどきを受けるが、その教え方は折檻をともなう厳しいものだった。高慢な春琴に献身的にかしずく佐助。いつしか佐助は、彼女に支配され、虐げられ振り回されることで、倒錯的な愛情を抱くようになる。春琴が何者かによって熱湯を顔にかけられると、佐助は、その姿を見ないですむよう、両眼を針でつき、自らも盲目となる…… サイモン・マクバーニーは、日本の伝統芸能の持つ様式美をあちこちに取り入れている。たとえば、簡素な舞台は棒や畳の並び替えで、場面が転換する。春琴は、最初は黒衣の女性二人が遣う人形。このあたりは文楽を思わせるが、それが、成長にともない、生身の女優(宮本裕子)による人形ぶりに変わり、最後、春琴がやけどを追う場面では深津絵里が演じる。背景のスクリーンに映る文字や植物や灯りの影は、陰影豊かだ。 折檻の場面のエロチシズム、盲目になった佐助を春琴が抱く場面は、ゾクッとするほど切ない。 [演出] サイモン・マクバーニー [美術] 松井るみ/マーラ・ヘンゼル [出演] 深津絵里、チョウソンハ、ヨシ笈田/立石凉子、宮本裕子、麻生花帆、望月康代、瑞木健太郎、高田惠篤/本條秀太郎(三味線)
by sustena
| 2008-03-01 23:34
| Theatre/Cinema
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