2015年 10月 06日
川上量生さんの『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書 2015年6月刊)を読む。 川上さんは、1968年生まれ。京都大学工学部を卒業後、ソフトウェア会社を経て1997年にドワンゴを起業。2006年にニコニコ動画をスタートさせ、いまや一般会員5000万人規模にまで育てあげたネット業界の有名経営者。現在、KADOKAWA・DWANGOの代表取締役会長であり、スタジオジブリプロデューサー見習いという経歴の持ち主だ。 そんな川上さんが、スタジオジブリの機関誌の『熱風』に、2012年11月号から2014年6月まで連載した記事をもとに再構成し、加筆修正してできあがったのがこの本。「ジブリの鈴木敏夫プロデューサーにも、ネットの今とこれからが分かるように書け」という命題のもと、なるべくネット業界のジャーゴンやこけおどしを排除して、ひらたく素直に解説してる。 ところでワタクシめ、数年前、ネットのプロモーションを企画する部署に所属した際、社内のデジタル旧人類に向けて、ネットを使った広告のいろんな手法や最新事情をまとめ、1週間に一度メールニュースの形で発信するという役を買って出て、2年ばかりネットを使った販促や広告のあれこれを追っかけていたんだけど、いやはや、次第に頭がぐるぐる、そして半分虚しくなっちゃった。なぜって、どうあがいてもついていけそうになかったから。 そんな旧世代の私に、川上さんは、ネットのことがよく分からない理由は二つある。一つには、ネットの概念のほとんどが外国から輸入したもので、偉そうにしゃべってる人もその概念の受け売りをしてるだけで、実は本人もあんまり整理ができてないからという「IT舶来主義」のせい。もう一つは、ネットというものがこれまでの社会とは異なる文化を持つ新しい社会をつくっているから。IT舶来主義はともかく、今後デジタルネイティブが増えていくなかで、どんな社会になっていくのかは、気になるよねぇ・・ということで読み進めていくと──。 まず川上さんはネットを利用している人には、ネットを便利なツールだと思っている人とネットを自分の居場所だと思っている人の2種類があることに注意すべきだ、という。ネット住民はネット利用者の中では少数派になりつつあるが、ネットで起きることを理解するには彼らの存在は重要で、ヒマでネットに浸っているのでネットの世論やムードをつくっているというのである。 ではネット世論の実際はどうか。たとえば総選挙の時などに行われる「ネット人口調査」を見てみると、これはニコニコ動画の登録者に1回だけ半強制的に表示され、100万人以上がアンケートに回答するとんでもないc調査なのだが、回答者の情報源が主として新聞かテレビかネットかで、投票先の政党の割合が明確に違うという。 2012年11月27日に実施した調査では次の結果だった(ニコ動のユーザーということを念頭に置く必要がある)。 「新聞」が最大の情報源という人の回答・・・自民38.0 民主15.2 日本維新の会11.3 同「テレビ」・・・自民26.8 日本維新の会18.5 民主9.2 同「ネット」・・・自民56.6 日本維新の会9.9 民主3.2 みんな3.3 なんとこんなに違うのだ! つまり、世間で世論と呼ばれているものは、自然発生したものでなく新聞とテレビというマスメディアの強い営業を受けた世論である。一方、ネット世論は、新聞とテレビという既存マスメディアのほかに、ネットメディアに強い影響を受けている。 ネットが情報の提供に多様性を与えたのは事実であって、少数のすばらしい意見や情報が載っている。しかし、情報の海のなか、まとめサイトとソーシャルメディアで情報をループさせることなどによって、偏った情報が跋扈する皮肉な状況も生まれているのだ。 コンテンツが無料になるかどうかを論じた章で印象的だったのは、広告モデルでコンテンツをつくるというビジネスモデルがコンテンツをつくる側にとって不利であるということ。コンテンツホルダーとグーグルやアマゾンなどのプラットフォーム側の駆け引きについて、それぞれの機能と強みが明快に整理されていて「なるほどー」と得心がいった。 また、オープン化を志向してきたネットが、スマホ時代に入って「クローズド」になりつつある話、集合知は頭がよくないし、基本的に計算が遅くなる。集合知は、人間の集合から計算されるデータを機械的知性が利用するためのものという話、ビットキャッシュのしくみなども興味深かったが、一番個人的に気になったのが、電子書籍の未来について語ったパートだ。 おお!もう紙の本の運命は風前のともしびなのか・・・ 電子書籍はまだまだ、という人の挙げる理由としては すべての本、特に過去に出版された本が電子書籍化されていない、原価の安さにかかわらず電子書籍の価格優位性が発揮されていない、電子書籍のデバイスは充電が必要・・といった問題だが、これは長期的には解決される。解決が難しいのは、「多くの読者は紙で文字を読むのに慣れている」「電子書籍は紙の本のような存在感がない」ということだが、紙にこだわる旧世代が去るころには、紙が主流の文化は過去のものになると断言する。 いまは、活字のデータを単に電子化しているだけだが, 音声や動画などのデータを取り込んでマルチメディアの電子パッケージになったり、参考文献や注釈など、別の本にハイパーリンクしたりと、電子書籍の可能性こそに注目うすべしという。 コンテンツを創造する力こそが必要だよなぁ。シミジミ思ったことだった。 目次は─ はじめに ネットがわからないという現象が生み出すもの 1 ネット住民とはなにか 2 ネット世論とはなにか 3 コンテンツは無料になるのか 4 コンテンツとプラットフォーム 5 コンテンツのプラットフォーム化 6 オープンからクローズドへ 7 インターネットの中の国境 8 グローバルプラットフォームと国家 9 機械が棲むネット 10 電子書籍の未来 11 テレビの未来 12 機械知性と集合知 13 ネットが生み出す貨幣 14 インターネットが生み出す貨幣 15 リアルとネット
by sustena
| 2015-10-06 16:57
| 読んだ本のこと
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