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2015年 06月 21日

多田 麻美【著】/張 全【写真】『老北京の胡同―開発と喪失、ささやかな抵抗の記録』

多田 麻美【著】/張 全【写真】『老北京の胡同―開発と喪失、ささやかな抵抗の記録』_c0155474_0214580.jpg胡同の写真や映画を見るたびに、北京にいったら胡同を訪れたいと考えていたのだが、中国がすさまじい勢いで近代化を推し進めるなか、庶民の暮らしを支えてきた胡同が片っ端から取り壊されている話を聞き、ああ、間に合わなかったなぁ・・という思いにとらわれていた。

『老北京の胡同』(晶文社 2015年1月刊)は、2000年から北京で暮らした多田麻美さんが、その劇的な変化の一端を記録にとどめたもの。多田さんの夫でフリーカメラマンの張全(ジャンチュアン)さんが撮った写真も、口絵のほか、本文のあちこちに収められている

多田さんは、1973年生まれ。京都大学を卒業後、比較文学の研究者になろうと大学院で中国語学中国文学科を学び、北京外国語大学ロシア語学院に2年間留学。しかし、そこで胡同の「とてつもないカオス」にはまり、「胡同の神様にとり憑かれて」、大学をやめて北京のコミュニティ誌の編集者に転身する。そして胡同に住みながら、フリーランスのライター兼翻訳者として、北京の文化と現代アートをレポートする仕事に就く。飽きることなく胡同を歩き、ネットワークを広げ、再開発に抵抗する住民の声を聞き、そんななかで仕事上でも相棒となる夫と出会うのだ。

この本はそんな多田さんの胡同生活のあれこれとともに、暴力的な再開発の進め方とそれに抗う人々、なんとかして 胡同を守っていこうと取り組むNGOの動きなどを伝える。多田さん自身が胡同の一員として暮らす日々と、再開発のすさまじさが活き活きと描かれる第1部第1章・第2章がもっとも読みやすいが、エリアごとの個性や歴史が二重写しになる2部も、あれこれ想像しながら読むと興味はつきない(本文中の写真がもっと大きければよくわかるのに、ちょっと残念)

かつて胡同の数は「大きなものだけでも3600、小さなものは牛の毛ほど」といわれたという。1980年代までは減少が比較的ゆるやかだったが、ある統計によると、2000年には1200本、2005年には758本、つまり、新中国成立後の半世紀余りの間に、5分の1までに減り、その後さらに2014年には500ちょっとにまで減ったとのこと。文化大革命のときよりも、北京オリンピックにむけてが大激変だった。

まちがなくなり、住民がバラバラになることは、土地の記憶もなくしてしまうこと。中国だけの話じゃない。日本でもそうで、いまも進行中なのだ。


目次

はじめに  

1部 胡同が消える――開発の光と影  

第1章 止まらぬ破壊  
1、立ち退きに抗する人々  
2、消えゆく胡同ネットワーク  
3、「自由」の領域  
4、「自分の家に帰る」ための半世紀  

第2章、伝統的な景観と住環境
1、時を止めた鐘楼  
2、戻ってきた幻の河  

第3章、断ち切られる伝説
1、消えた竜の井戸 
2、鄭和の庭  

2部 胡同を旅する――老北京、記憶の断片

第4章 胡同の味
1、「小吃」が守る食の伝統  
2、老北京の台所事情 

第5章 趣味人たちの都
1、路地に響く美声  
2、骨董の都の賑わい  

第6章 華麗なる花柳界
1、色町の残り香――八大胡同  
2、歴史を変えた名妓  

第7章 裏世界をめぐる伝説
1、北京っ子のヒーロー、燕の李三  
2、スパイたちの暗躍  

第8章 古都の記憶
1、北京を鳥の目で見る  
2.近代化の実験場、香廠  
3、波乱万丈の百年、国子監街  
4、氷と明かりの巨大な蔵  

終章 消えゆくものを引き留めるられるか?
1、北京のNGO、文化財保護をめぐる攻防  
2、記憶の集積、「老北京ネット」の奮闘  
3.小さな流れが生む力  

おわりに―老北京はどこへ行く  

写真は3月に訪れた北海道開拓の村でのもの。こうした形での保存という手もあるのかもしれないけれど、もっと別なやり方があるといいよねぇ。
多田 麻美【著】/張 全【写真】『老北京の胡同―開発と喪失、ささやかな抵抗の記録』_c0155474_14421161.jpg

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by sustena | 2015-06-21 14:49 | 読んだ本のこと | Comments(2)
Commented by Cakeater at 2015-06-27 17:38 x
記憶違いでなければフートンと読むんですよね。東京の佃あたりや、ちょっと以前の本郷菊坂あたりみたいな横丁下町北京版。東京と同じく、みんな消えちゃうんでしょうねえ。
そういえば、昔東洋文庫から出てたIzabella Bird の「日本奥地紀行」が「ふしぎの国のバード」という題で、佐々大河を起用してマンガになってますね。一巻目は日光まで。(株)KADOKAWA発行。本郷の図書館漁りしてた駒場時代に借りて読んだなかで一番印象ぶかかった、「消えてしまった」日本のルポルタージュです。38歳だったIzabellaが若く書かれてるのと、日本英語通訳のハシリだった当時20歳の伊藤鶴吉がハンサムに書かれすぎているきらいがありますが。機会がありましたら立ち読みでも。絵師を支える編集者の資料調査が大変だろうなあと思うのでつっこみはやめておきましょう。
Commented by sustena at 2015-06-28 22:11
はい、その通り、フートンです。先日の新聞記事によれば、ここを拠点に現代アートを発表しているアーティストもいるとか。イザベラバードのマンガは知りませんでした。あの精力的な紀行文を伝える写真展を、去年だったか一昨年だったか忘れましたが東大でやっていて興味深かったです。


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