2015年 03月 10日
瀬戸内寂聴の『死に支度』(講談社 2014年10月刊)がめちゃおもしろかった。 瀬戸内寂聴は1922年5月15日徳島生まれ。なので御年92歳。私と誕生日が同じで、同じくまーるい顔も親近感がわくんだけど、もうとてもマネできないほど自由奔放で、明るくてエネルギッシュなひと。 さてこの『死に支度』は、「群像」2013年8月から2014年7月号までの1年間連載された長編小説というか私小説とエッセイがないまぜになったようなお話をまとめたもの。 91歳の誕生日を前にしたある日、長年付き添ってきた寂庵のスタッフたちが辞めさせてくれという。自分たちがいるばっかりに、90歳を過ぎても、寂庵さまは働きづめである。仕事を絞り、からだをいたわりながら大事なことだけに専念してほしいと訴えたのだ。 そこで、作家は「春の革命」を決意。一番若い66歳年下のモナだけを残し、仕事を大胆に整理するはずが、東京都知事戦で細川護煕を応援するわ、宝塚の100周年の祝典歌の作詩をするわ、一向に仕事は減らない。 このモナとの会話が実にテンポがよくて、作家の一向に枯れないみずみずしい感性が伝わってきてすばらしい。モナとのやりとりを読んでいて、大笑いしながら泣けてきて、電車の中で読んでいてひどくバツが悪かったぞ。 初対面の面接で「初体験はいつ?」と尋ねられ、うっかり「高校二年生です」、と答えるモナは、エイプリルフールに「センセ、あたしもピンチなんです。生理がこないんです」とか、「大変なことが起っちゃったんですよう! 今朝、髪にドライヤあてようとしたら、禿が出来てたんですよ!三つも!これはストレスによる円形脱毛症だよう」なんて、作家をひっかけて喜ぶ現代っ子。 「臨終行儀」について考えていて、昔の偉いお坊様は、死ねば自分の死体は野に捨て獣の餌にしてやれって言ってるが、現代はそうもいかない。献体して役立てる方法もあるけど、自分の内臓を好きな人にあげるならともかく、どこの誰かも知らない人にあげるのは嫌。でもその考え方が出家者として恥しいと作家が悩んでると、モナはお姉さんにメールしてドナー選定基準を教えてもらい「心配しただけバカみたい。センセの内臓はもう賞味期限切れで何ひとつ役に立たないんだって」「さ、無駄な悩み捨てて早く原稿書いてください」と作家の尻をたたく、優秀な秘書でもある。 一方、ローンを組んで全身脱毛だ、マツエク(まつ毛のエクステ)だと、オトコを釣るために美を磨いているモナたちを見ながら、作家は思う。 「私が情熱をこめて書いてきた明治の終りから大正のはじめの「青鞜」の女たちは何と思うだろう。自分の身の廻りに張りめぐらされた厚い固い因習の壁を、自分の素手で爪をはがして血みどろの手で掻き落し破り落そうとしたあの新しい女たちの、悲壮な戦いを思いおこしたら、百年後の日本の女たちの意識や行為の変り様を何と見るだろうか。 (略) 百年前の彼女たちが思い描いていた女性の理想の自由の姿と、現代の若い娘たちが当然だと行動してこれが自由と信じているものとは、果して同じものだろうか。 時折ふとこういう思いはよぎっても、66歳も違うスタッフと、「なう語」を使ってやりとりするほど、のびやかな寂聴さんはステキだ。説法に遠くから大勢ひとが集まるのもむべなるかな。 寂聴さんの筆は実に自在で、寂庵での日常を描写しながら、一瞬にして寂庵のスタッフの独白や、縁者の視点での思い出話になる。自由に思いが飛んでいくのだろう。 そしてこれまで出会った男や姉、父母、文学者仲間、修行をともにした出家者・・作家より先に鬼籍に入ったひとの思い出や死をしみじみと語る。その思いの深さにしんとなる。 何度でも読み返したくなる本だ。 (それにしても、表紙はタイトルと似顔絵が金色に盛り上がった加工(箔押し??)で、これまた迫力であります) 春の革命 母コハルの死 春の雪 てんやわんや寂庵 点鬼簿 それぞれ 臨終行儀 負け戦さ 木の花 虹の橋 幽霊は死なない
by sustena
| 2015-03-10 00:47
| 読んだ本のこと
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Comments(13)
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esiko1837 at 2015-03-10 08:41
サステナさんが面白いと書いてたので、私も早速図書館から借りてきました。
今読んでいるのが終わってからと思ってたああのに、すぐに読みたくなりました。 新聞記事か広告かで、「若い人だけを残して」と書いて有ったので、20代か30代だと思ってたのに、66歳だったんですね。 やっぱり今夜から読もうっと。
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sustena at 2015-03-10 12:49
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esiko1837 at 2015-03-10 19:15
寂聴さんが天台寺の住職になられて最初の説法の時に、
聴きに行った記憶があります。 その後、有名な説法会になったので、町長が講演を依頼しようとしたら、 まだ一度も説法を聞きに来たことがない人の依頼は断ると言われたそうです。 そこで、慌てて参加して「資格」を得たというエピソードがあります。 「顔写真は苦手」というコメントを頂くことがありますが、 サブリミナル的に、ステルスフェイスとしてさりげなく提示するのもありですね。
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sustena at 2015-03-13 00:33
Lucianさん、知り合いの編集者がインタビューを依頼したとき、とてもそんな立派なことは言えないと断られたとか。それでなくともいろいろな依頼が山のようにあったろうなぁと思います。
顔写真は、不思議なもので立て続けに気になるときと、サッパリ出会えないときと波があります。最近は不調で、あまりにアタリマエのものにしか出会えてません。
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esiko1837 at 2015-03-13 19:54
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ken_kisaragi at 2015-03-14 10:38
俺もぼつぼつ覚悟をもって、なんてたまに思うけど
この歳でそんな事言ったら笑われるか、、、 いや相手にされないかもしれないねw TVで説法は何度か聞いた事有るけど、 抑揚や声色など語り口に強い魅力を感じます、 すごい人間力を持った方ですね。
このエスカレーターでの写真はぼくには撮れないなあ。カメラ取り出しただけでやばそうです。男には撮れない写真。。。ですね。
顔ですよ、顔!といっても、普通の警備員や警官には理解してもらえそうもないし。lol 昨日ルミネでクッキーの缶を買って、一個だけだったので3センチくらいのテープだけ貼ってもらい裸のまま手に持って歩いてたら、ぴったりと後ろに若い警備がついてくる。。。お、引っ掛けてやろうかと思って歩き続けて出口の数歩手前で、「犠牲者」はテープに気がついたようで、急に足を止めた。残念と思ったら、若いののその背後を歩いてきたおばさんにぶつかって、平謝り。不審者ごっこは楽しいです。lolol.
2枚目の顔写真は「どこでも誰でも」ですが、1枚目の「口」が秀逸ですね。
エスカレータは撮影禁止区域なので、撮れないですよ〜。 「死に支度」、必要でしょうね。 今年から年金貰うので、早く死ぬのが、世のため人のため?
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sustena at 2015-03-17 22:29
esikoさん、私はいろんなエピソードも興味深く読んだのですが、すーっと心にしみ入ってくる文章の読みやすさが、なんといっても好きでした。
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sustena at 2015-03-17 22:30
kenさん、人間力がすごい、に同感!!
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sustena at 2015-03-17 22:31
Cakeaterさん、本日エレベーター内で、あまりに楽しいバッグ顔を発見したんですけど、さすがに2人しかいなところでカメラは取り出せませんでした・・・。
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sustena at 2015-03-17 22:34
iwamotoさん、バッグと並んで、洋服も顔に出会うチャンスの多いジャンルです。 もっとも、これぞってのはあまりないんですけど。死に支度とかエンディングノートとか、断捨離とか、私にも必要だろうなぁと思うもののなかなか・・・。
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