2014年 11月 08日
村上春樹の『女のいない男たち』(2014年4月 文藝春秋刊)の順番がようよう回ってきたので地元の図書館で借りて読む。私は、村上春樹の熱心な読者とというわけでは全くなくて、出たら図書館に予約して半年~1年ぐらい経ったあたりで読む、ということが多い。長編より、どちらかというと短編やエッセイのほうが好きという邪道なタイプであります。 今回は6作中4作がけっこう好きだった。 まえがき ドライブ・マイ・カー イエスタデイ 独立器官 シェエラザード 木野 女のいない男たち まずまえがきを読んでちょっとびっくり。彼はあちこちの雑誌に依頼を受けて書き散らした短編小説をまとめるというやりかたはしないで、特定のテーマなりモチーフを設定し、自分のペースでコンセプチュアルに作品群をまとめていくんだそうだ。今回も第一稿を書いたあと、「短編小説を書いたのですが、掲載してもらえる可能性はありますか?」と文藝春秋に尋ねたそうな。とりあえず書いてしまってから、その作品が向いていそうな雑誌なり出版社に持ち込むわけで、ま、村上春樹くらいの大センセイともなると、どこもハハーッとなるんだろうけど。 この短編集も1作目の「ドライブ・マイ・カー」を書いているときに、なぜか「女のいない男たち」というフレーズが頭にひっかかってしまって、書き連ねていったのだという。ヘミングウェイの Men Without Womenとは違って、文字通り、いろんな事情で女性に去られてしまった男たちの話。モテない男というわけじゃないんだよねぇ、これが。 「ドライブ・マイ・カー」は事故を起こして愛車(黄色のサーブ900コンバーティブル)の運転ができなくなった俳優の家福が専門の運転手を雇う話。女性のドライバーは、乱暴すぎるか慎重すぎるか、ってパターンが多いけど、運転手となった渡利みさきは、無口でひたすら運転がうまいのだ。で、次第に二人は家福の死んだ妻について会話をする・・・。 2つめの「イエスタディ」は、東京出身のくせにカンペキな関西弁をしゃべり、イエスタディを奇妙な関西弁の歌詞(昨日はあしたのおとといで、おとといのあしたや)で歌う、木樽という浪人生についての話。すてきなキャラなんだよね、これが。 「独立器官」はウデのいい美容整形の渡会医師の話。モテ男だったが、あるとき、真剣な恋に陥ってしまい、死んでしまうのだ。 「シェエラザード」は、外出できない羽原のもとに定期的にやってきては、彼のかわりに買い物などの雑用をこなす主婦のシェエラザードがセックスのあとに語ってきかせる話が、いかにも村上節で秀逸。自分がやつめうなぎだった前世での過ごし方。片思いの男の家に忍び込んで、ささいなものを盗み、自分の痕跡を残す、そのことがエスカレートしていく話。 「木野」は、妻の浮気の場面に遭遇し、根津美術館の裏でバーを開く男の話。途中までは好きだったんだけど、次第に私の苦手な類の村上ワールドが展開する。そして単行本にまとめるにあたって書き下ろした表題作も、ちょっとなんだかなー。(1箇所ヘヘッと思ったのは、パーシーフェイスやレイモンド・ルフェーブルなどの音楽を「エレベーター音楽」と評していたところ) 朝の散歩で。公園は少しずつ秋の気配。
by sustena
| 2014-11-08 01:10
| 読んだ本のこと
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Comments(8)
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at 2014-11-08 06:45
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
村上氏は2009年にエルサレム賞を受賞した際に、人間を「卵」に、人間を傷つけ殺すシステムを「壁」に例え「私は常に卵の側に立つ」とスピーチして、イスラエルのガザ侵攻を暗に批判しました。
これが原因でノーベル文学賞を逃しているのかもしれません。 ノーベル賞などその程度のものでしょうが。
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まあ、なんちゅう題であることか。lol
写真は懐かしいところですねえ。 というんで、ワードプレスの方で絵葉書時代(1988-9年)の旧作をアップしてるところに(6月の引越しで出てきたlol)善福寺池の写真を載せてしまいました。(営業ですねえlololol)
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sustena at 2014-11-09 23:05
Pくん、それはほめすぎ。かつがれてると思っちゃいますー
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sustena at 2014-11-09 23:07
Lucianさん、私はノーベル賞の文学賞の選考委員はヘソまがりが多くて、下馬評に上がっている人はなるべく選ばないようにしてるのかと思ってました。
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sustena at 2014-11-09 23:09
Cakeaterさん、先入観なしにこのタイトルを見たとき、もてない男たちのことかと思ったんだけど、多くの人はやっぱりヘミングウェイを思い浮かべるものなんでしょうか??
Hemingwayの方は「女たちがいない男たち」で村上のは「女のいない男たち」なんですよね。村上の言葉遣いだと、やはりもてないやろうドモのニュアンスになる(英語の達者な村上だから、その辺はちゃんと計算してると思う)んですよね。文学としてHemingway を読まないミステリマニアでも、The killers だけは、ハードボイルドの最初の作品として読んでる。で、その流れの読者の一人なもので、The Killers を読むためにMen without women を買うはめになるんです。はい。昔はペンギンブックスで買ったのが、いまやパブリックドメイン入りしてますから、無料で落とせる。Hemingwayの世界というのは、Robert Frankの世界に通じてるような気が個人的にするんですが、村上にはそんな匂いがしませんね。
余談ですけど、LAでThe killers の文章をそっくりつかって、ベイコンエッグを注文したんです。Give me bacon and eggs. 出てきたのはベーグルアンドエッグズでした。LOLOL.
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sustena at 2014-11-24 21:27
Hemingwayの世界というのは、Robert Frankの世界とのお話、すごーく納得しちゃいました。先日、猫たちの西洋画の本を読んだら、こっちはかわいいんだけど、どうもアーティストの区別がつかない。イロイロだなと思っちゃいました。
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