2014年 08月 13日
長年武道と能楽を稽古してきた内田樹センセイが、茶道家や合気道、相撲力士、尺八や雅楽奏者、さらにはマタギまで、日本独自の身体運用の達人たち12人と語り合い、それぞれの身体の使い方や訓練・上達の秘訣などを探った対談集『日本の身体』(2014年5月刊 新潮社)を読んだ。 季刊誌『考える人』の2008年冬号から2011年冬号までの連載を再編集し、それに著者自身の身体についての考え方─「身体の使い方は集団的に決定されており、日本人には固有の技法がある。そしてそこには風土や生産様式、ライフスタイルに根ざした合理的な理由がある」という「日本の身体仮説」をさらっと論じた、長めのあとがきをつけたもの。 どの話も、身体の使い方を訓練していくことで、他者とシンクロするコミュニケーションができるんだってことが強調されていたように思う。 個人的には、尺八の中村さんと元大相撲力士の松田さん、マタギの工藤さんとの対談がおもしろかった。 尺八で「密息」という呼吸法がある。吸う時も吐く時も、骨盤を出し、お腹を膨らませたまま行うのだという。腹式で呼吸すると大きな動きになるが、この密息だと、どこで息継ぎをしているかよくわからない。「大きな筒があって、そこにラップのような薄い膜が輪ゴムで止めてある。筒の中に目一杯空気が入っているのが平常の状態で、時々横隔膜を上げてふうっと吐く。もう一度力を抜いてやれば、膜が最初の位置に戻り、すかーんと瞬時に大量の息が吸える」という理屈だという。(やってみたけど、ゼンゼンできなかった。) 松田さんとの対談で興味深かったのは、双葉山が土俵際で力を抜くと、「固体が液体になってしまうような感じ」だったってところ。しこの踏み方は、今は高々と足を上げる力士がもてはやされるけれど゛明治大正の頃は膝を曲げて足先の力を抜いて、だらんと膝から下がるような形だったそうで、絶対に足裏を見せなかった。 マタギの工藤さんの章では、「クマの胆」をとるのは、クマが冬眠から覚めてすぐのときでなければダメだという話、初めて知ったよ。なぜって、食べるようになって1週間から10日も経つころには、胆汁は消化に使われなくなってしまうから!また冬眠から覚めた直後のクマ肉はまったく臭みがない。毛皮も、冬眠に入ったあと穴の中できれいな冬毛にかわるから、冬眠から出てきたときは、ツヤツヤピカピカ。こういうわけだから、猟期は冬眠が終わってクマが穴から出てくる4月20日すぎから5月6日ごろまでとほんの2週間程度なんだって。 そうそう、クマは冬眠している間に巣穴の中で子供を産み、授乳してるそうな。すごいー。 関係ないけど、表紙の脚の絵は山口晃さん。 千宗屋 茶道家―五感全てを差し出し、その洗練を問う 安田登 能楽師―張り詰めた沈黙、「コミ」で意志を通じ合わせる 桐竹勘十郎 文楽人形遣い―虚の中心である「人形の体感」に同調する 井上雄彦 漫画家―武道の本質を示した、「描かれた武道書」 多田宏 合気道家―命の力の高め方、保ち方、使い方の訓練法 池上六朗 治療者―「一瞬前とは違う状態を作り出す」ことで治す 鶴澤寛也 女流義太夫―伴奏ではない、人物の内面や情景を描写する音 中村明一 尺八奏者―静穏なまま、大量の呼気を瞬時にオペレートする 安倍季昌 雅楽演奏家―「陛下」の祭祀の傍らに侍す、二九代目の楽師 松田哲博 元大相撲力士―稽古の基本は身体の機能が目覚める「しこ」 工藤光治 マタギ―人だけのものではない山から恵を授かって生きる 平尾剛 スポーツ教育学者―人間としての成熟が「愛情あるパス」をつなげる 少し長すぎるあとがき
by sustena
| 2014-08-13 23:07
| 読んだ本のこと
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Comments(2)
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