2013年 06月 03日
2~3週間前だったか、文春文庫の新聞広告で、井上ひさしの新刊が出たことを知り、あれ今頃?と思ったら、親本は2年半前に出ていたことがわかって、図書館で借りて読む。 これは「オール読物」に平成10年から平成20年5月号まで、途中6年半のブランクを挟んで10年以上にわたって掲載された短編をまとめたもの。15の話が収められていて、井上ひさしが亡くなったためにいくつかの伏線がそのままになってしまったけれど、尻切れトンボの感じはそんなにしない。 鎌倉の東慶寺の前の御用宿のひとつ、柏屋が舞台である。主人公の信次郎は翫月堂という版元から滑稽本を1冊出しただけの駆け出しの作家で、柏屋に逗留(というか居候)して新作を書こうと呻吟しているのだがなかなかうまくいかない。蔵前の医者・西沢佳庵先生のもとで修行した見習い医者でもある。 ところで、御用宿とは何かというと── 江戸時代に女が三行半をつきつけられて離縁された、という話は日本史の教科書などで習うのだが、女のほうからこんな男と一緒には暮らせない、と思ったらどうするか、江戸から十三里ほど離れた鎌倉の東慶寺に駆け込むのである。簪などを敷地に投げ込むだけでもOKで、駆け込んだと認められると、女性は東慶寺の門前に3つの御用宿の一つで事情聴取されて調書がつくられる。その後、夫や関係者に呼び出し状が送られて、関係者がそろったところで「相対熟談」という話し合いがもたれるが、そこで示談とならなかった場合に入山。断髪し、生臭ものや五辛を断った粗末な暮らしをし、24カ月を寺で過ごしたあとは、どんな事情があろうと夫は離縁状を書かなくてはならない。つまり、夫と別れたい関東一円の妻たちにとっての救いの場所が「縁切り寺」である東慶寺で、その事務方兼宿坊といった役割が、御用宿なのであります。 信次郎はこの調書まとめの手伝いをしていて、いろんな男女の機微に触れることになるのですね。 寿司屋や刀鍛冶、歌舞伎役者などいろいろな職業の人が出てくる。別れる理由も人それぞれ。破綻した関係もあれば、持参金を夫に使ってほしいばっかりに・・・という例もある。信次郎が医者の心得があることから、男子禁制の尼寺に入って診療する場面もある。離縁のしくみや、冥加金の自慰右脳楽によって、寺での過ごし方が違うとか、小説のでき以上に、江戸時代の風俗の知識が興味深かったな。 柏屋の主の源兵衛さんや、柏屋を支える利平とお勝の夫婦、おしゃまなお美代など、登場人物がいずれもあったかい。いかにも井上ひさしの短編でありました。 巻末、井上ひさしの死後に残された「東慶寺の本棚」と呼ばれる本棚からの参考文献のリストもすごい。資料をいっぱい読み込んだんだろうなぁ・・。 睡蓮の池の中にバンがいても、なかなかわからない。
by sustena
| 2013-06-03 22:25
| 読んだ本のこと
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Comments(2)
1985年から書き出してるということは、ほとんど隆慶一郎の「駆込寺陰始末」と同じころに同じ資料を読んでたということになりますね。ちょうどそのころ西舘さんと離婚してるから、さすが井上、ただでは転びませんね。lololol
確かに注意して探さないとバンは撮れませんね。でも個人的には、ボートの上のカモが好みですねえ。
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sustena at 2013-06-04 22:16
西舘さんとの離婚のころの話は聞くだにスサマジイです。娘さんの発言によると、伝えられているほどではないってことだけど。
ボートのカルガモ、ボートの色がいつもと違う場所みたいで撮りました。睡蓮のほうは、やたら遠くで私の視力で、やっとそれとワカッタのでした。、 |
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