2012年 01月 17日
ブックデザイナーの栃折久美子さんの『モロッコ皮の本』を読んだのはうもう30年以上前のことだ。仮綴じ本から、一冊一冊宝物のような本ができること、そういうルリユール(製本工芸)という仕事があって、その技術を身につけるためにブリュッセルで修行した話が、達意の文章で綴られていて、手の中に大切なヒナをもったような、そんな気持で読んだことを今でも思い出す。 その栃折さんの『製本工房から』『装丁ノート』におさめられたエッセイを再編集して、このほど出版されたのが『美しい書物』(みすず書房 2011年12月発行)である。それはそれは美しい水浅葱というか、青磁色というか(なんていうのが適切なのかなぁ)のシンプルな装丁で、今どき珍しい糸綴じ(背面にベタっと糊付けされた無線綴じのに非ず)の本で、中の文字のバランスもほれぼれしちゃう。 「室生犀星と私」「作家たちとの出会い」「本のいのち」「ルリユール工房から」「記憶の風景」と分れていて、中でも、冒頭の「室生犀星と私」の2編がすばらしい。次いで「記憶の風景」。 「炎の金魚」の出だしはこうだ。 -------------------------------- 金魚の魚拓を一枚作ってくれませんか、形は天から火のように落ちてくる恰好。つまり頭が地上に向き、男鹿天に向く恰好、にして。 大きさは伸ばすつもりですから、原画は小さくてもいいのです、眼ノ玉と尾とを正確に。 ある朝出勤すると、机の上にこんな葉書があった・・・・ -------------------------- 編集者をしていた著者に室生犀星が自作の装丁用に金魚の魚拓を依頼し、それをなんとか仕上げていくこと、そのときの心情を室生犀星が小説のモデルとし、その犀星の小説をを読んで栃折さんが小説家志望はさっぱり捨てたこと、室生犀星先生宅を訪れる編集者たちや、先生との交流を、しっとりふんわりした文章で描く。 1960年から1995年ごろまでの文章だけれども、ちっとも古くさくなくて、とてもみずみずしい。残り少なくなるのを惜しむ気持で読み終えたことだった。
by sustena
| 2012-01-17 22:53
| 読んだ本のこと
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Comments(2)
「モロッコ革の本」、なつかしいですねえ。今も、持ってるのか自分でも分らないですね、1995年に500冊残して7500冊捨てた時に残したのかどうか?うむ、この新本、買うべきか否か?悩ましいなあ。kokorono hurusato ha kaerutokoroni arumajiya inaya...lololol.
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sustena at 2012-01-24 00:11
ひゃー、7500冊も処分したのですか!私もちょうどその頃に大々的に処分して以来、図書館で借りて読む、が基本になりました。それで気に入って、今後も読む可能性のあるものだけを購入するってパターンです。
さて、この本でおすすめは室生犀星のところだけなので、買うには及ばないかと・・・・・。 |
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