2011年 09月 04日
2週間ぐらい前に、世田谷パブリックシアターで、前川知大 作・演出の『現代能楽集VI 奇ッ怪其の二』を見た。 前回の「奇ッ怪~小泉八雲から聞いた話」は小泉八雲の怪談から5編を選び、芝居の登場人物と物語の登場人物が自在に行き来し、そこはかとないユーモアがかもしだされるコワイ話だったが、今回は、現代における能をテーマに、いまの世の奇ッ怪を描いた。 私はこの現代能楽集のシリーズはわりと好きで、(1)『AOI/KOMACHI』(作・演出 川村毅、2003・2007年)、(2)『求塚』(作・演出 鐘下辰男、2004年)、(3)『鵺/NUE』(作・演出 宮沢章夫、2006年)、(4)『The Diver』(作・演出 野田秀樹、2008年)、(5)『「春独丸」「俊寛さん」「愛の鼓動」』(作・川村毅、演出・倉持裕、2010年) と5本全部見ている。 これまでの多くが、著名な能のストーリーを現代に置き換え、過去の能の作品と、現代の作品との本歌取りのオーバーラップを味わうタイプだったのに対して、前川のこの『奇ッ怪其の二』は、能の基本設定───たとえば廃墟となった寺に旅の僧が通りかかると、怨みを残して死んだ霊があらわれて、切々と思いを述べる。僧に供養してもらって、やっと平安が訪れる───という、夢幻能の構造を借りたものとなっている。 違うところは、能が死者の無念を晴らす鎮魂だったのに対して、前川が鎮めるのは、死者に対して負い目の感覚を抱いたまま、心を侵食されているような人たちだ。 矢口(山内圭哉)は、神主である父親が死んで以来、すっかり寂れた村の神社にやってくる。そこには山田と名乗るホームレス(仲村トオル)が暮らしていた。そこへ温泉を開発して、村おこしを計画している男(池田成志)と地質学者(小松和重)がやって来る。彼らに山田は3つの話を聞かせる。 息子が脳死となり臓器提供をするが、性急なコーディネーターのために、息子の死を受け入れられず、臓器提供先を探す母の話。暴力を受けて半死状態にある男と偶然目が合ったものの、助けを呼ばなかったことから、その男がどうなったか気になってしまい、人生が狂っていく男の話、うつ病の妻が自殺してしまった負い目から、いのちの電話の応対者になり、ついにはニセ精神科医になる男の話。 それぞれのエピソードは、聞き手の3人と、舞台の穴から登場する仮面をかぶった村人の霊による劇中劇として語られるのだが、話が進むにつれ、次第に、この村の全員が地中から湧きだす硫化水素の毒によって死んでしまったことが明らかになっていく。 この芝居の最後は、ありし日の村人たちの祭り(=祀り)の準備の様子が語られる。和気あいあいとした日常が、ガスの噴出によって消え去ってしまったのだ・・・・・。 仲村トオルの軽みのある味がよかったな。(ついでにいうと、私はいつも小松和重から目が離せない) 堀尾幸男の古い神社の舞台を思わせる美術が象徴的。仮面をかぶった人物が行き来する穴のあいた橋懸はあの世とのかけ橋でもあるのだった。
by sustena
| 2011-09-04 00:02
| Theatre/Cinema
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Comments(2)
写真をパッと見て、自分ならカメラをもっと左に振るかなって思いました。
緑が真ん中過ぎると感じたのです。 でも、これで良いみたい。 これはなかなかのものだと理解できました。 記事にも合ってるしね。 一瞬で分かんなくてご免なさい。 まだまだ修行中の身なので(笑)
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sustena at 2011-09-04 21:47
うまく撮れなかったんですけど、この光の感じだけが撮りたくて、私の趣味としては、もっと木の幹が右の方がいいんですけど、まぁそんなにいつも吟味せずにアップしてます。写真も、ホントはマネキンののっぺらぽうの写真と組み合わせようと思ったんですけど、それだとあまりにつきすぎな感じもして、その上最近あまり撮っていないので、ありものから選んだので・・・と言い訳しきり。
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