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2011年 06月 26日

藤本壮介『建築が生まれるとき』

藤本壮介『建築が生まれるとき』_c0155474_22404244.jpg藤本壮介の『建築が生まれるとき』(王国社 2010年8月刊)を読む。

大きく2部に分かれていて、1部は藤本の建築プロジェクトや設計プランの解説やアイデアコンペの文章などもを年代順に並べたもの。第2部は彼が好きな建築や、実際に訪れた建築についての文章と「ディテール・ジャパン」誌の藤本へのインタビューである。

藤本壮介の発想の根っこにあるもの、どんなふうに言葉をつむぎ、その言葉が建築につながり新たなかたちを生み出して、言葉と建築が刺激し合いながら深まっていく様子が伺える。

冒頭の「プリミティヴ・フューチャー」の文章の中で、藤本はこんなふうに語る。

建築をつくるときには、常に現代における普遍的なものを求めたい。しかし、それは現代という時代や現代の建築を分析することからは生まれない。常に新しいものをつくりたいし、同時にそれがいつまでも新しいままでいてほしいと思うが、将来を先取りする新しさではなく、永遠に実現しない新しさを求めたい。それは未来の予想からは生まれてこない。彼にとって現代とは、「決して着地しない未来への跳躍が行われるための踏み切り板」である、と。

そんな藤本が捉える現代をひとことでいうと、「情報と環境の時代」である。なんだアタリマエの定義だと思う泣かれ。彼の意味する情報は「新しい単純さ」であり,環境とは「コントロールできない他者」である。
新しい単純さを備えていて、自分ではコントロールできない他者的な要因を許容する多様な場所をもつ建築とは───。それが「未来の森」のような場所である。(むろんメルヘンチックな森ではない)。

藤本は、「未来の建築のための5つの問い」として、(1)場所としての建築、(2)不自由さの建築、(3)形のない建築、(4)部分の建築 (5)あいだの建築、の5つを掲げる。

たとえば、居場所から発想する。部分からの秩序を考える。
大きな骨格から秩序をつくっていくという近代の大きな方法とは正反対の考え方だ。
町をつくるときに大通りから考え家々を配置していくのではなく、小さな路地や小さな広場のようなものから隣の路地や広場と穏やかに関係を持ちながら広がっていく町のつくられ方。

部分と部分の局所的な関係性から緩やかな秩序が生まれていく。それはちょうど、自然の中の複雑な秩序、たとえば森のつくられ方に似ている。そんな「偶然の多様性」を生み出していく建築を構想したい、と彼は言う。

住むための快適な領域を囲い取り、そのぼんやりとした領域のなかに、内部の部屋や外側のテラス、外部のような内部のような場所など、いろいろな質の場を取り込んで,内部外部の区別なく快適な住環境をつくりだす。部分と部分の関係性から生じる秩序については、I・ブリゴジン+I・スタンジェール「混沌からの秩序」から影響を受けたという。 

こうした「関係性と距離感の感覚というのは、いまの若いひとにも共通した感覚なのだろうか(うちの息子などは、藤本にぞっこんである)

それと藤本が若いときに影響を受けたのは、なんとガモフ全集なんだって。空間を、ヴォリームがあり、ゆがみ、身体と相互作用するものと規定する。建築以前に空間というものを意識しはじめたという藤本の空間の概念は、相対性理論のイメージから始まっているそうだ。

以前、ギャラリーワタリでやっていた藤本壮介のスタディ模型や新作をズラリ並べた個展の前にこの本を読んでいたならば、あのさまざまな形の意味が、とてもよくわかったことだったなぁ。
藤本壮介『建築が生まれるとき』_c0155474_22325332.jpg



by sustena | 2011-06-26 21:52 | 読んだ本のこと | Comments(4)
Commented by jmiin at 2011-06-27 05:40
目が回る~^^;
Commented by sustena at 2011-06-27 22:49
この塀をみていたら、外部と内部が区別できないぐるぐるの建築のことを思い出したのでした。
Commented by ken_kisaragi at 2011-07-04 23:23
共同体としての町づくりと、ひじょうにパーソナルな趣向で構えたい家。
一見、二反背律するのですが、不思議と歴史刻むと馴染むような気がします。
公園や緑をポイントに置いた都市計画には大賛成ですね。


Commented by sustena at 2011-07-05 21:57
このひとの作品としては、武蔵美の図書館が評判がよくて、見てみたいなーと思ってるんですが、見てません。関係性をつくるための建築ってスタンスが興味深くて、路地みたいで森みたいで洞窟みたいな都市や住まいを提唱してるんですよー。


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