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2010年 04月 02日

彩の国さいたま芸術劇場「ヘンリー6世」

彩の国さいたま芸術劇場「ヘンリー6世」_c0155474_014729.jpg彩の国さいたま芸術劇場で蜷川幸雄演出の「ヘンリー6世」を観た。
昨年、新国立劇場で3部ぶっ通し9時間以上の「ヘンリー6世」がなかなかよかったので、蜷川ならどう描くのか、役者が違うとどうイメージが違ってくるのか興味があって、チケットを取ったのだった。

もともと3部構成の芝居を、今回は翻訳の松岡和子さんと河合祥一郎さんが2部に再構成した。シェイクスピアの厖大なセリフの不要な部分をそぎ落としたり、本筋とはあまり関係のないエピソードを削ったりしたわけで、まぁストーリーとしてはちゃんと筋が通っているし、スッキリわかりやすかった。でも、新国立で全3部をエンエンと観て、あの戦乱の世界にどっぷり浸かることができたのに対して、やっぱりダイジェストだな、という感じは否めない。

もうそろそろおしまいなので、ネタバレだけど書いちゃうと───
冒頭、白い舞台にところどころ真っ赤な血だまりができているところに5人の掃除のおばさんがやってきて、拭き取りはじめる。都会の雑踏、車の行き交う音、ときどきパトカーや救急車が通りすぎる音がかすかに聞こえるなか、黙々と作業を進めていく。きれいになっていよいよスタートかなと思ったところに、突然銃声が響きわたり、舞台の上から赤い肉塊がいくつもいくつも落ちてくる・・・。残忍な殺戮が繰り返され、今もなお、銃弾が飛び交う世界とだぶらせるように、本来のヘンリー5世の死を悼む場面に移っていく。

この舞台では、赤薔薇と白薔薇、フランスが舞台となる場面では白い百合の花が空から次々と降ってくる。蜷川お得意の演出であるが、薔薇戦争、英仏戦争と観客が混乱しがちな部分をわかりやすく見せているし、何よりもとってもきれい。時間や悲しみが降り注いでくるようでもあった。

こんなふうに、派手な部分もあるけれど、基本はシンプルな舞台で、俳優の衣装とセリフ、音楽だけで、戦乱の歴史が進んでいく。

二度目なので、筋立てや、人物の相関関係はよくわかった。ただし、ついつい前回と比べてしまうのである。

たとえばヘンリー6世である。新国立劇場の浦井健治のヘンリー6世は、LOVE&PEACEのピュアな感じ。片や上川隆也だとグッと人間的。ただ、非戦主義を掲げたいのだがひ弱で意志薄弱な存在・・というよりは、ほんとはこの人はもっと根性あるはずだよねぇと、いつもの上川のキャラを重ねてしまって、なんだか像がきりりと結ばない。

大竹しのぶは、ジャンヌ・ダルクとマーガレットを演じる。このひとは、いつも大竹しのぶ、という存在が先に出ちゃうところがあるけれど、でも観客をわしづかみにする力はすごいなぁ。
新国立劇場のソニンがういういしい乙女のジャンヌだったとすれば、大竹のそれは、もっと狂気にかられたジャンヌだった。中嶋朋子のマーガレットが冷酷な王妃で、村井国夫のサフォーク伯との愛がシブイ中年男との不倫にみえたのに対して、大竹は激情のひと。池内博之との愛は、燃えるような若さがほとばしる愛だった。戦場で軍を率いての戦いは存在感たっぷり。

新国立の渡辺徹のヨーク公がなんだかやんちゃ坊主ふうだったのに対して、吉田鋼太郎のヨークは大人の戦略家で重厚な存在感……。

その他、高岡蒼甫(リチャード)・長谷川博己(シャルルとエドワード)・瑳川哲朗(グロスター公) 立石涼子(グロスター公爵夫人(うまーい)・草刈民代(オーヴェルニュ伯爵夫人・グレイ夫人・・・ちょっと下手だったなー)
彩の国さいたま芸術劇場「ヘンリー6世」_c0155474_0134669.jpg


by sustena | 2010-04-02 00:14 | Theatre/Cinema | Comments(4)
Commented by esiko1837 at 2010-04-02 06:21
上川さんが出ているので、私の古い仲間たちが見に行っていて、感想を掲示板に書いてくれていました。
もっと王の内面を描いて欲しかったなあという感想でした。
サステナさんのようにお芝居が大好きな人は、こんな長時間でも最後までちゃんと見られるんですね。
私は上川さんが大好きだった時でも、最前列のどまんなかで眠りこけてしまいました。
2時間(3時間?)でこうなんですから、ヘンリー6世だと一日分の睡眠がとれてしまいます・・。
なんにしても、蜷川さんは70歳を過ぎてますますお元気ですね。
Commented by nuts-co at 2010-04-02 18:30
帰ってまいりました!そのむかし、受験勉強でめんどくさがりながら勉強したヨーロッパ史だったので、漠然と覚えている程度で、どこへいってもイマイチ、ぴしっとわからなかったから、せめて、シェイクスピアくらい読み直しておくべきだったよ、と思ったのは後の祭りでしたよ。
Commented by sustena at 2010-04-03 19:28
esikoさん、私は蜷川のはじめた55歳以上のゴールドシアターをみたいなぁと思っているんです。ガンというけど、エネルギッシュです。
Commented by sustena at 2010-04-03 19:29
nuts-coさん、お帰りなさい! ヨーロッパを旅すると、世界史の断片がよみがえってきますよねー。写真楽しみにしています!


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