2010年 03月 19日
世田谷パブリックシアターで「マクベス」を見た。 わずか5人で、マクベスをやるなんて。しかも、このシェイクスピアの厖大なセリフを大胆にそぎ落として、休憩なしの1時間半。時間が進むにつれ、この悲劇の象徴性がぐぐっと迫ってくる舞台だった。 舞台正面に、地球を模した半球がある。松井るみ作のこのドームは、まるで檻のようでも原爆ドームのようでもあって、あるときは居城に、あるときは魔女が跋扈する荒野になる。 冒頭、舞台バックには宇宙が広がり、「森羅万象、宇宙の塵、文明の澱、人間のゆがみ、ゆがんだ人間・・・」のナレーションが流れ、マクベスが地球を切り裂くと、3人の魔女が蠢いているシーン、戦いに勝利したマクベスとバンクォーが、予言を言い渡される場面となる。(このあたり、演出家の頭の中には秋葉原の殺傷事件なんかが頭にあったみたい) 野村萬斎のマクベスは、最初はこれじゃあチンピラっぽすぎないか?という感じが強かったんだけど、表情の変化や、セリフの朗誦のうまさに、次第にひきこまれちゃった。 秋山菜津子はマクベス夫人。シェイクスピアをやるのはこれが初めてなんだとか。意外。マクベスの野心に火を注ぎ、叱咤激励する烈女ではあるんだけど、繊細でパワフルで、ことに、血が落ちないと夢遊病者のように歩き回るところがすばらしかった。 この主役2人以上に、存在感がたっぷりで、芝居に奥行きを与えていたのが高田恵篤・福士惠二・小林桂太の天井桟敷/万有引力出身の3人である。まず第一にこの3人は魔女である。彼らの予言に、マクベスは運命の糸を操られるように、破滅へと疾駆することになるわけだけれど、魔女から布一枚、王冠ひとつで、バンクォーや国王ダンカン、マクダフ、家来etcに早変わりして、マクベスとマクベス夫人以外の登場人物をぜーんぶこなしちゃうわけ。 後半、マクベスが再度魔女のところに予言を乞いにいく場面では、天井桟敷で「大滅亡」として知られる、からだがひっぱられるように跳んだりはねたり、くねらせたりの技をみせてくれる。 そして、最後の森が動くシーンの演出。暗い森ではなく、血のような紅葉が実に美しかった。 (ネタバレもいいところだけど、最後はこのチラシにあるように、人形が横たわり、戦場に花が咲く。白骨ではないところに萬斎のねらいがよく表れているなーと思ったことだった) GRDIII 忍野八海
by sustena
| 2010-03-19 23:40
| Theatre/Cinema
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