2008年 10月 30日
![]() この『そろそろ旅に』は、「東海道中膝栗毛」の作者・十返舎一九の若き日を描いたもの。重田与七郎は、駿府の町奉行から大阪東町奉行となった小田切土佐守を慕い、故郷駿府を出て大坂へ行く。田沼時代から白河の治世となり、世の中が大きく変わろうとするなか、武士を捨て材木問屋・豊後屋に婿入りする。商売の才はないが、話がうまく、人に好かれる与七郎。あるとき近松東南と知り合い、浄瑠璃の筆を執ることに。「身どもでも、作者になれるのか」「道を外れることができれば、作者になぞだれでもなれまする」。 そのうち与七郎は、茶屋通い、賭場通いが嵩じて、借財を重ねる。ついに、豊後屋の娘・お絹と別れ、江戸へ。ここで蔦屋のもとで居候し、青本の作者となる。山東京伝、滝沢馬琴らが筆を競う。人まねではなく、自分ならではの道をどう見つけるか苦吟する。二度目に婿入りした質屋からも飛び出し放浪の旅に出る・・。 こんなふうに単につづめては、ちーっともおもしろくない。 登場人物がどれも厚みがあって、文章がしみわたる感じがイイのだ。 豊後屋のお絹との別れの場面が好きだ。顔の長い与七郎をお絹はおん馬さんと呼ぶ。「おん馬さんは、無理をしたらあかん」「私が惚れたんは、おん馬さんの、きらきら光った眼ェや。そのきれいな眼ぇは一体どこへ行ってしもたんや」腐った魚の眼にしか見えなくなったのが何よりも哀しい。家につないでおくのではなく、もう放してあげるしかない。自分を背に乗せてどこにでも行ってほしいが、豊後屋の家があるからできないといって少女のようにわぁわぁなくところ。よくあるパターンなのだけれど、ひょうひょうとしながら、まっすぐな気性で、博才があって思い切りがよいけれど、気の弱い部分もあわせもった与七郎の人となりが、じっくり書き込まれてきただけに、彼に惚れたお絹のかなしさがしんしんと伝わってくるのだった。 いつまでもひたっていたいような、そんな小説。 写真は、夕方の浅草。 ![]()
by sustena
| 2008-10-30 23:23
| 読んだ本のこと
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