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2008年 01月 08日

木下史青『博物館へ行こう』

東博の展示が以前より照明がよくなったように思ったこともあり、木下史青さんの『博物館へ行こう』(2007年7月 岩波ジュニア新書)を読んだ。木下さんは、東博の本館リニューアルにも携わった展示デザイナー。東京芸術大学大学院を修了後、同大デザイン科助手、面出薫さん率いるライティングプランナーズアソシエーツなどを経て、現在、東博の事業部事業企画課デザイン室長である。ジュニア新書用に書き下ろしたものなので、とてもわかりやすい。小中高校生に、展示デザイナーになるまでの数々の出会いや、展覧会開催にいたる仕事のプロセス、急激に変化する現代のなか、国内外で進化をつづける博物館の魅力etcを語ったものだ。木下さんのテーマは、「博物館に記念撮影したい展示風景」をつくることだという。

この本のなかで、もっとも興味をひかれたのが2006年7月から8月にかけて開催された東博の「プライスコレクション─若冲と江戸絵画展」についてである。ロサンゼルス在住の日本画収集家のプライス氏の江戸時代のコレクション約100点を一堂に会した特別展で、とても見応えがあった。
この展覧会開催にあたって、プライス氏のつけた注文が、自然光のような光で彼のコレクションを展示すること。彼が日本絵画を見るときにもっとも大切にしているのは絵を見るための光で、窓のブラインドを調整しながら、太陽光で見ることの重要性を繰り返し木下さんに語ったという。

「・・・・驚かされたのは、光を暗くしてみたほうが、もっとよくみえてくる絵があるのを知ったことだ。それは、金箔を紙に貼ってそこに絵を描いたり、金の絵の具で描いたりした絵は、光を落としてみたほうが美しい輝きを発するということだった。ただ光が当たったことで美しい絵がみえるというだけでなく、それはとても立派にみえたのだった。金箔とは対照的に、銀箔の絵は光を落とさずに、強い光をあたえたほうがよい。水墨画は横方向からの絞りこんだやわらかい光でみると絵に深い奥行きが現れてくる。プライスさんはそのようなことを教えてくれた」。
こうして、屏風絵を変化する光のなかで鑑賞するコーナーが生まれたのだ。

木下さんは、自分を取りもどしたいときに、美術館、博物館に出かけたという。モノをみてぼんやりしていると、博物館には想像もつかないほどの時間がつまっていることに気づく。自分が考えていたことはとても小さい、目の前にはこんな美しいものがあるじゃないかと、心の目が開いてくるのだと語りかける。

写真もふんだん。博物館の仕事をしたいという人だけでなく、美術館や博物館に興味のある人は読むといい。展示や保管に気を配りながら、いかに親しまれる博物館にするかに力を注いでくれているかがうかがえる。

写真は、日本美術の流れのコーナーで、浮世絵とともに、当時のファッションを知ろうと展示してあった打ち掛け。花のデザインがいまふう!
木下史青『博物館へ行こう』_c0155474_019924.jpg


by sustena | 2008-01-08 23:24 | 読んだ本のこと | Comments(0)


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