2016年 03月 08日
エクスナレッジから2015年12月に刊行された『Frank Gehry フランク・ゲーリー 建築の話をしよう』は、アイデアの塊で、独創的な建築をつくるゲーリーが、いかにして卓越した建築家であり続けているのか、その秘密に、丹念なインタビューと数多くの写真やスケッチで迫った本。 原著の発行は2009年で、インタビュアーは『ロサンゼルス・タイムズ』『ウォール・ストリート・ジャーナル』の元記者で、美術ライターのバーバラ・アイゼンバーグ。日本語訳は岡本由香子さん。とても読みやすい訳文だ。 ゲーリーは1929年2月29日、フランク・オーウェン・ゴールドバークとして゛カナダのトロントに生まれた。父はボクサー・トラック運転手、セールスマンとして家族を養ったが、絵を描くのは犂だった。ポーランド生まれの母は、成人してから高校に入り直した。バイオリンをたしなみ、息子に芸術と音楽の世界を教えたという。その後一家は1947年にロサンゼルスに移住し、授業料がタダのロサンゼルス・シティ・カレッジの夜学部に入学。そこで美術と建築を受講し、南カリフォルニア大学の時間外の陶芸のプログラムで学んだりしていた。そして建築の才能を見いだされ、夜間の建築デザインのクラスに進むことになる。その後、1954年秋から1956年にかけて、アメリカ陸軍に入隊し、建築の専門家としてさまざまな経験を重ねていく。 改姓したのは1954年。本人の希望というより、娘が、ユダヤ人という出自によって差別されたりからかわれたりしないため、ドイツ系スイス人によくある名前で、Gがつく名前ということで選んだのだという。 最初に就職したのは、有名建築家、ヴィクター・グルーエンの事務所。ゲーリーはそこで、ショッピング・センターや個人の社宅、店舗の設計などをこなす。そのころはずっと伝統的な設計を手がけていたらしい。 建築の勉強をしていたころに惹かれたのはコルビュジエ。彼の絵を見て身震いがしたという。 「二次元の世界で自分の言語を確立していることに心惹かれた」という。「コルビュジエの絵を見て、それから彼の建築を見て、彼が独自の言語を創造していることに気づいた。彼は発想を絵にしている。彼にとって絵を描くことは、アイデアをつかむための方法なんだ」 そして、自分はどうやって表現すればいいかを考えて、その答えがスケッチと悟る。その後彼はいろいろなアーティストと友だちになり、彼らの発想をぐいぐい自分のものにしていくことになる。 有名になるにつれ、世間が抱くゲーリー像に、あるときはいらだつ。 「ぼくのつくるものは妄想の産物で、機能性だの周囲の環境だのといったことはまったく無視しているという印象を持つ人が多いからだ。ぼくの身勝手がなぜかまかり通って、いかにも機能していいるように見せかけていると、そういうふうに思われる。50も60も模型をつくって、予算内に収まるように、工期に間に合うように四苦八苦して、技術的問題をはじめとしたもろもろの障害を乗り越えて、ようやく完成したことは評価してもらえない。 アーティストと見なされるということは、ビジネスの能力がないと思われることに等しい。・・・・ (略) 見たこともないような並外れた作品を発表すると、予算やスケジュールやクライアントや周辺環境に無頓着なやつだと決めつける。エゴの塊だと。そういう建築家もいるかもしれないが、ぼくは違う」 バーバラが、インタビューした人たちの何人かが、ゲーリーノ最大の長所は人の話をとん聞くところだと言っていた。オンタリオ美術館の館長などは、ゲーリーが初期の段階からどんな美術館にしたいのかをしつこいほど質問してきたと書いていると伝えると 「その部分は文字を大きくしておいてくれ。ゲーリーは聞く耳を持っている。エゴの塊ではないってね」 ゲーリーは、過去の建築や絵、自然から着想を得ることが多いという。 年に一度はコルビュジエのロンシャンの礼拝堂を訪れるようにしているんだそうだ。「あれを見ると涙が出るんだ。あまりにも美しい。ほとんど完璧といっていい。魂が震える場所だよ」と語る。「コルビュジエの作品はよく勉強したから、あの形状がどこから来て、あの域に到達するまでにどれほどの苦労があったかもわかる。コルビュジエはあの建築に7年の歳月をかけたんだ。ぼくは彼が考えたすべての設計案を研究したよ」 「偉大なものを前にすると膝の力が行けるんだ。キリストにいばらの冠をかぶせる(ヒエロニムス・ボスの)絵を 見たときもそうなった。イスラエルでやっているプロジェクトの発想の源になった絵だ」「とっくに始まっていたから、べつにボスの絵を真似したわけじゃない。でも、偉大な作品を見ると勇気が湧く。・・・・このまま進んでいいんだと思える」 3カ月前にゲーリーの建築の進め方の展覧会を見ただけに、さらになるほど!と思うことが多かったな。 A5変型 308ページ 4色。 ■目次 はじめに “夢の家”をデザインする 第1部 学び 始まり、ゲーリー上等兵、次のステップへ、芸術作品とトイレ 第2部 自分の言語を確立する ゲーリー 海を渡る、ミシシッピ川の美術の神殿 待ちに待ったヒーローの帰還 ディズニー・ホールのコンペを振り返って ビルバオ・イフェクト 第3部 さらなる高みへ 事務所のゲーリー 天才たちと交わる スクリーンで、そしてティファニーで 大陸の端と端で アトランティック・ヤードとグランド・アベニュー再開発 ガラスの家の人々 ゲーリー、犬小屋を建てる 故郷へ 引退までのカウントダウン
by sustena
| 2016-03-08 00:30
| 読んだ本のこと
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Comments(2)
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