2015年 05月 20日
図書館の新着図書をチェックしていたら、赤瀬達三さんの『駅をデザインする』(ちくま新書 2015年2月刊)という本が目に留まった。以前、息子が外国の駅はおもしろいけれど、日本の駅にはロクなのがない。もっと待っているときの期待感を演出したり、出会いと別れをしみじみ感じさせる駅があるといいとブーたれていたのを思い出して借りて読んだ。 駅をデザインするというタイトルだけと、実は駅のサインのお話なのだった。著者の赤瀬達三さんは、日本の交通系サインの第一人者。大学3-4年に大学紛争を経験し、自動車会社への内定を蹴り、デザインで世の中をよくしようと案内サインをデザインする事務所に就職。その後1972年に営団地下鉄のサインを担当して以来、営団民営化までの31年間、営団地下鉄のサインの基準設計を担当する。その後、みなとみらい線、つくばエクスプレス、高速道路などの交通施設やアークヒルズ、六本木ヒルズなどの大規模複合施設のサイン計画に従事。こうした経験を踏まえて我が国の公共サインの歴史と、サインの計画設計にかかわる理論を体系的にまとめたのが『サインシステム計画学——公共空間と記号の体系』で、それを一般向けにわかりやすく解説したのが本書なのだった。 先に、駅のデザインの本ではなく、サインの話だったと書いたけど、駅空間が誰にとってもわかりやすいものでなければ、サインがわかりやすくなるはずもないのであって、サインを考えることは、駅のデザインを考えることでもあるのだ。 第1章は、基本となる理論や概念が解説してあるんだけど、ここで退屈して脱落しちゃう人がいるかもしれない。ごたくのきらいな人はすっ飛ばして、具体例が載っている第2章から読むといい。 さて、著者がはじめて営団地下鉄のサインを手掛けたころは、サインはあってもバラバラで・・・たとえば文字の大きさも違えば、用語もまちまち、英文があったりなかったり、表示がほしいところにでかでかと広告があるなど未整備で、ひどい場合はどこに改札口があるかさえわからない状況だった。 そこで、緑の入口カラーと、黄色の出口カラーを設定し、路線カラーによる○印の路線シンボルを導入し、動線がわかれるところには必ず図解サインを入れる、地上の周辺街区と地下の駅構造を1枚の図面に描くなど工夫を重ねていった。その後、出口の黄色サインはJIS化されたという(私はこれまで出口が黄色だなんてまったく意識していなかった!) 著者が長年携わり、社会的にも高い評価を得た営団地下鉄のサインも、民営化し東京メトロとなった際に、2つの大きな変更があった。一つは新会社のロゴマークの紺色を、乗り場案内サインの地色としたこと、出口の案内で、駅周辺の著名なランドマークとなる施設と出口の位置関係をわかりやすく示していた情報を、広告扱いとしたこと。著者はこれを機に基準設計者から降りることになる。 著者はいう。 「日本の駅づくりの根本的な欠陥は、土木部門が構造を考え、建築部門が内装を仕上げるという、総合的な人間環境のイメージを欠いた検討体制にある」「本気で駅に集散する人々の快適さを考えたことがなかった」と。 こうして、パブリックデザインやトータルデザインがないまま、ツギハギできた結果、JR新宿駅などは世界一わかりにくい駅になってしまった。このほか、第5章で著者が挙げる渋谷、名古屋など、日本の駅デザインの現状と課題を述べた個所にはボーゼンとするばかり。複数の会社が集まるターミナル駅で、自社のマーケティングのことばかり考えていては、いくら優秀なデザイナーが入ったとしても、パブリックのためのサインになるはずがないのだ! (出張先で知らない駅でサインにしたがって行ったら、途中でサインが消えていて、まごつくことがよくあるよなぁ・・・) 商業広告があるためにせっかく作り上げた空間秩序が台無しになっている例もよく見かける。 「パブリック空間というのは、金さえ払えば好き勝手にわめき散らしていい場所ではない。なぜなら、それはプライベートな要求だから。パブリック空間は、そこにいるすべての人が楽に気持ちよくできるようにつくる必要があって、そうした整備を支援したい人だけが、スポンサーとして氏名表示を許されるべきなのだ」 その通り!!! これは、きょう通った新橋駅。こうでもしないと、朝は混乱するんだろうけど・・・。 第1章 駅デザインとは何か デザインの目的/まず、わかりやすくする/駅のデザイン課題 第2章 案内サイン 営団地下鉄———サインデザインの手本として/みなとみらい駅———建築家とのコラボレーション/つくばエクスプレス———新規鉄道のイメージ戦略/横浜ターミナル駅———はじめてのコモンサイン 第3章 空間構成 仙台市地下鉄南北線???鉄道の見える場面をつくる/国会議事堂駅前出入り口建物———”地下に光を!”/福岡市地下鉄七隈線———トータルデザインの試み/東京メトロ副都心線———色彩で駅を美しく 第4章 海外の駅デザイン 英国鉄道とロンドン地下鉄/フランス国鉄とパリ地下鉄/デンマーク国鉄とストックホルム地下鉄/ユニオン駅とワシントン地下鉄/グランドセントラル駅とニューヨーク地下鉄/台北地下鉄と北京地下鉄 第5章 日本の駅デザイン JR新宿駅———わかりにくさ世界一/JR名古屋駅———ピントのずれた旅客サービス/JR京都駅———部分に留まった第一級の空間整備/東京メトロの駅———狭隘化と過剰表示の進行/東急東横線渋谷———誰のための駅デザインか 第6章 これからの駅デザイン 駅デザインに求められるもの/空間構成の方策/案内サイン計画の注目点
by sustena
| 2015-05-20 22:55
| 読んだ本のこと
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Comments(10)
「土木部門が構造を考え、建築部門が内装を仕上げる」ってのは、日本の土木建築文化なんで、一人の建築士(デザイナー)が構造から内装までデザインする文化ではないんですよね。時代によって境界が動くんですが普請奉行作事奉行造作奉行がそれぞれに動く。乱暴にまとめると一番単純なのは普請奉行が縄張り土盛石垣を作った後、作事奉行が箱物を立て庭を造り、柱と梁や屋根以外の内装は造作奉行がするという。それぞれに予算(どういう風に金策するかは奉行の自腹みたいな集金力=管理能力)は別ですし、その予算ゆえデザインの自由もある(当然賄賂というか役得もそれぞれの段階である)。それが今までずうっと続いて来てるとぼくは思ってます。ぼくの知る限りでは鎌倉室町時代からの歴史なんで、ほぼ千年近い文化なんでちょっとやそっとでは直らないと思います。
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iwamoto
at 2015-05-21 22:44
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Lucian
at 2015-05-22 11:39
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大きな駅舎では利権が複雑に絡むので、トータルデザインは難しくなると思います。
「フランケンデザイン」は日本社会の象徴や縮図として、後の世に語り継がれるでしょう。
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kabu360 at 2015-05-23 06:33
朝↑夜↓ 何だか お薬の指示書に思いました(^.^)
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esiko1837 at 2015-05-23 21:08
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sustena at 2015-05-25 22:20
Cakeaterさん、小樽とか古い駅はわかりやすいものがあると思うけど、継ぎ足し継ぎ足しできたような都心のターミナル駅は悲惨ですね。
千年の文化なのね・・。
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sustena at 2015-05-25 22:23
iwamotoさん、クルマの場合はごくたまに助手席に乗るくらいなのでサインをチェックする機会は少ないんですが、ものすごくわかりにくいものや、初めての人だとなかなかここは入れないよーという場所がありますよね。慣れちゃうと気づかないことも多いけど。改善の余地の大きい分野ですよね、たぶん。
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sustena at 2015-05-25 22:25
Lucianさん、慣れている私でも、新宿駅の南口と新南口とか、いろんな電車が相互乗り入れしたりしてどのホームに行ったらいいかなど、めちゃくちゃわかりにくいです。東京オリンピックに向けて整備なんて間に合わないだろうな。
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sustena at 2015-05-25 22:27
kabu360 さん、最近咳き込んでいるので、以前入院したときに出された咳止めの薬が売るほど残っているのを思い出して引っ張りだしたら、名前と朝・昼・夜とそれぞれのフクロに印字してありました。
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sustena at 2015-05-25 22:29
esikoさん、新橋の駅のまわりのゴタゴタした感じはまだまだ残っていて、いかにもサラリーマンの町です。
若いころは飲み屋で明け方まだ飲んで、そのまま2時間ほど寝かせてもらって出勤したこともありました。 |
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