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2014年 10月 20日

平川克美『路地裏の資本主義』

平川克美『路地裏の資本主義』_c0155474_2250964.jpg昔、竹内宏に『路地裏の経済学』というエッセイがあって、平川克美さんの 『路地裏の資本主義』(角川SSC新書 2014年9月刊) も、最近のITやグローバリズムの経済学を、生活者の視点から描いた批評的エッセイかしらんとと思って読み始めたら、想像とはけっこう違って、最近の資本主義─格差を拡大しながら地球規模で迷走し始めた暴力的な収奪システム─や株式会社はフィクションだってことを意識しようよ、多様性を生かしつつ、私たちの皮膚感覚、生活実感にそった、拡大を志向しない定常経済へシフトしていけるかを思いめぐらしたもの。

といっても、そんなうまい処方箋はあるわけはなくて、どう足下を見つめて、それぞれが知恵をしぼっていかなきゃいけないかという話なんだよね。

なので、目からウロコの話がのってるわけじゃないんだけど、誰だってそう思うんだよなぁ・・・・とうなづきながら読む本かな。

私がほほーと思ったのは次の3点。

ひとつ。歩きながら考えるていの文章が、すごく読みやすくて、ひらたい言葉ですとんと頭に入ってくるにびっくり。(でも構成にちょっとまとまりがないのは残念だよー9

二つめ。エマニュエル・トッドの『世界の多様性』という著作に興味しんしん。
トッドは世界の家族形態を、親子関係(自由か権威主義的か)、兄弟関係(平等か不平等か) の二軸のマトリックスで4通りに分類し、さらにタブーによる婚姻のタイプ(外婚性か、内婚制か) を加えて8通りに分けたという。日本の場合は、親子関係が権威主義的で、兄弟関係は長子相続型で不平等。そしてこのタイプは、アジアに広く分布しているんだけど、ヨーロッパでも、ドイツ、オーストリア、スウェーデンでは一般的なんだって。
一方中国は独裁的な権威者のもとに、権利上平等な何組もの兄弟夫婦が同居する大家族集団をつくっており、自集団内での婚姻を禁じる、外婚制共同体家族。そしておもしろいことに、ベトナム、旧ユーゴ、キューバ、ハンガリーなど社会主義化した国々がことごとく外婚制共同体家族に分類されるんだって。考えてみたら、国家や株式会社などのフィクションも、こうした家族形態が社会化されたものなんじゃないか・・・と平川さんは考察していく。うむ、もとの本にあたってみなくっちゃ。

3つ目。気に入ったセリフ。
自分が何を得たかということよりは、自分が何を断念できたかということの中に自分へのリスペクトは生まれます。断念によってしか獲得できない境地、というものがあるということです。大人になるとは、そういうことです。

平川さんは1950年東京生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、内田樹氏らと翻訳が主業務の会社を設立し、1999年にはシリコンバレーのBusiness Cafe Inc.設立に参加。現在、オープンソース技術のコンサルティングを行うリナックスカフェ代表。最近は地元で喫茶店を開業。このほか、「ラジオデイズ」の代表。立教大学大学院特任教授なども務めるひと。

第1章 資本主義のまぼろし(そもそも、資本主義とは何なのか/貨幣信仰と自然の慎み深さについて/中にどっぷり浸っていると見えない世界/後ろ向きでいいじゃないか)
第2章 路地裏の資本主義(借金まみれの資本主義/厚顔無恥な人々/喫茶店が消えた理由と、働く理由/コンビニの少ない町/まぼろしの楼閣跡で、尊厳死法案を考える/知恵の掟としての贈与/顔のない消費者/ネットに飛び交う剣呑な言葉と、貨幣の関係/教育と正義/パンとサーカスに踊る人々/時間をめぐる考察/飼い犬の遺言)
第3章 国民国家の終わりと、株式会社の終わり(フィクションとしての株式会社/始まったものは必ず終わる/ 等価交換とは違う、歴史的な合理性/家族の多様性と日本の会社/英米家族形態とグローバリズム/多様性を確保するための棲み分け)
第4章 “猫町”から見た資本主義
第5章 銭湯は日本経済を癒せるのか
平川克美『路地裏の資本主義』_c0155474_22494084.jpg


by sustena | 2014-10-20 22:59 | 読んだ本のこと | Comments(2)
Commented by Lucian at 2014-10-21 20:51 x
資本主義と共産主義は、グランドデザイナーによって、富の収奪システムの追求のために企画されました。
マルクスやケインズたちは単なる脚本家に過ぎません。
平川克美さんはラジオデイズの対談番組を聞いたことがあります。
目からウロコの話はなかなか受け入れてもらえないものです。
まずはオブラートに包まないと。
Commented by sustena at 2014-10-23 11:30
平川さんは多彩な方ですね。しごくまっとうなことが、ひらたくまっとうに(変な言い方・・)綴られていました。立教大学の学長の、疑う知性を育むのが教育だという意味の言葉の引用も(吉岡先生はもっとちゃんとした表現なんですが、私がちゃんと覚えていないだけ)についても共感しました。


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