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2014年 06月 08日

『海外で建築を仕事にする』

『海外で建築を仕事にする』_c0155474_21463664.jpg前田茂樹 編著『海外で建築を仕事にする-世界はチャンスで満たされている』(2013年8月 学芸出版社 刊)を読む。

今春大学院修士2年になった息子が就職活動がうまくいかなかった場合に、海外の道もあるとけしかけるつもりで、刊行を知ってすぐに図書館に注文したんだけど、予約はそんなに入ってなかったのに、なぜか手元に届くのに9カ月近くかかって、なんのことはない、その間に息子はラッキーなことに第一志望のところから内々定を得たので、母親の取り越し苦労というか、先読みがはずれたというか、でもまあ、この本から教訓やらノウハウを得ようという魂胆なしに気楽に読み始めたら、いやあなかなかおもしろいのである。

この本は、世界16都市で活躍する17名の建築家、デザイナーに、海外でワーキングビザをゲットして就職した体験談を綴ってもらったもの。ある者は、交換留学生の形で、ある者はインターンとして、またある者はゼネコンの設計部をやめて、あるいは、作品に魅せられてポートフォリオを持って押しかけ面接で・・・と、海外で職を得る経緯はさまざまなのだが(ジャン・ヌーベル、レンゾ・ピアノ、ヘルツォーク&ド・ムーロン、スミルハン・ラディックなど、私でも名前を知ってる有名な海外の事務所が出てくる♪)、共通してるのは、建築という武器と情熱を頼りに、言葉はおぼつかないながらも、自ら世界への扉を開いていったことだ。

著者の一人の松原弘典 (さる事件で逮捕されてしまったが)の言葉によると、「終身雇用的な日本のシステムや聖域に守られることなく、自分のスキルを武器に世界のどこでも仕事を見つけられる『ローニン』」のスピリットにあふれていて、ふむ、日本の若い人が内向きだなんてウソだなぁと思ってしまう。

もっとも、建築は、いまや国内だけを相手にしていては、もはやショーバイが成り立たない。東京オリンピックが決まって、ゼネコンなんかはガゼン張り切り始めたけど、でも長い目で見たら、どんどん古いものをぶっ壊して、高層ビルを建てて・・なんてビジネスモデルではなくて、超高齢社会、地方の超過疎化やいろいろな課題を前に、どう日本社会全体をデザインしなおすかという大きな課題について、どんなスタンスで建築という仕事を考えていくかが大事なわけだけで、そんな中でも前向きに、自らの力で建築を考えていきたいというひとは、世界を相手にしていくしかないのであります。たぶん。

さて、ローニンの志で海外に眼を向けた若者は、では門を叩いた事務所で、どんなふうに仕事を進め、プロジェクトを任されるに至ったのか? コンセプトメーキングや実施設計の現場で、スタッフやボスとどんなふうにコミュニケーションを図っていったのか? はたまた、コンペに応募し、独立の道を探し、滞在許可証やビザを更新して生活する苦労とは? 給料の交渉は? 休日の過ごし方は? (ワークライフバランスは日本とは違っていいみたい)

全員が順風満帆だったわけではない。OKをもらえず1年近く棒に振った人もいるし、しばらくは希望する仕事を与えてもらえず、言葉も通じないなか孤独な毎日を過ごした人もいる。

編者の前田さんは書いている。
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個人が自分の人生をクリエイトすることそのものが、創作であると思う。そして、人生をクリエイトするということは、さまざまな局面において選択のリスクを負うことといえる。しかし、自分が建築家としてどのように生きたいのかを見出し、その想いがリスクへの不安や危惧を越えた時、本当の意味での自由を得るのではないだろうか。
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海外で働くことの厳しさとやりがいと、17人の前向きな思いが伝わってくる本だ。
『海外で建築を仕事にする』_c0155474_22523798.jpg

ポルト
今はここにいる、ただそれだけのこと
伊藤廉/REN ITO ARQ.

ホーチミン
東南アジアの新しい建築をめざして

佐貫大輔・西澤俊理/S+Na. Sanuki + Nishizawa architects

北京
サムライ・ジャパンよりローニン・ジャパン
松原弘典/Tokyo Matsubara and Architects

パリ
建築のチャンス、世界への挑戦
田根剛/DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS

バーゼル
普通でいつづけること、普通からはずれてみること
高濱史子/+ft+/Fumiko Takahama Architects

NY,台北
建築と非建築をシームレスにつなぐ
豊田啓介/noiz architects

ロンドン
あいまいさを許容するこの場所に拠点を置きながら
小沢慎吾/John Pawson Limited

東京
東京の街がエネルギーをくれる
エマニュエル・ムホー/emmanuelle moureaux architecture + design

パリ
ドアをノックしなければ、始まらなかった
前田茂樹/GEO-GRAPHIC DESIGN LAB.

ヴァドダラー
建築を通して、インドの行く先を見届けたい
後藤克史

ジェノバ,シドニー
グローバルに、もっと自由に生きる
柏木由人/FACET STUDIO

オロット,バルセロナ
地域の風景の先にある世界
小塙芳秀/KOBFUJI architects

マーストリヒト
与えられた環境がすべてではない、自分で変えられる
梅原悟/UME architects

パリ
足もとを見て、振りかえってみると
吉田信夫/Ateliers Jean Nouvel

ヘルシンキ
何回失敗しても、負けじゃない
吉田智史/ARTEK

サンチアゴ
最果てのリベルタドール
原田雄次/Smiljan Radic Arquitecto

by sustena | 2014-06-08 22:53 | 読んだ本のこと | Comments(2)
Commented by higphotos at 2014-06-13 13:00
良いスナップですね
こういうスッキリとした街のスナップを撮りたくてGR-Dを買いましたが、
出番は小僧さんの鼻のアップか、田舎の畦道ばかりで、残念
Commented by sustena at 2014-06-13 23:54
higphotosさん、ありがとうございます。一眼や、ミラーレスやいろいろ買ったけど、結局一番出番の多いのはGR-Dです。


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