2013年 09月 07日
佐々涼子さんの『エンジェルフライト』(集英社 2012年11月刊)を読む。 日本人が外国でなくなったとき、あるいは、外国人が日本でなくなったときなどに、遺体や遺骨を国境を超えて送り届ける「国際霊柩送還」という仕事を専門に行うエアハース・インターナショナルという会社に密着したルポである。 書名の「エンジェルフライト」は、この、エアハースの所有する大型のトラックの後ろ扉に描かれているAngel Freightという文字と、柩を運ぶふたりのエンジェルの絵に由来する。Freight(発音はフレイト)は貨物という意味だからAngel Freightというのは、天使が運ぶように優しく運ぶという意味なのだが、亡くなった人が翼に乗って旅をする「天使のフライト」のようだと、国際霊柩送還のことをそう呼ぶようになったのだそうだ。 海外で悲惨な事故に遭うなどして命を落とすニュースは時折見聞きするし、ニュースにならずとも、日本人がこんなにも多く世界で活躍しているいま、エンジェルフライトのニーズは多いはずだが、それを専門にする人たちのことはまず表に出てこない。 邦人の遺体は海外の葬儀社の手によって送り出され、航空便の「貨物」として日本に戻って来る。海外の処置は送り出した国や業者によってさまざまだ。中には、きちんとしたエンバーミング(防腐処理)がなされていなかったり、ぞんざいな扱いを受けているものもある。損傷のひどいものもある。戻ってきた遺体はエアハース社によって表情を整えられて、遺族のもとへ帰る。外国人の遺体は、それぞれの宗教、習俗を尊重した形で日本から送られるのだ。 この本では、エアハース社長の木村利惠、利惠の息子、国際霊柩送還ビジネスの創業者、新入社員、ドライバー、そして遺族にスポットを当てながら、愛する人を亡くすとはどういうことか、死とは何か、弔うことの意義を見つめなおしていく。 遺体の処置をすることの是非を問うた箇所がある。息子さんが海外で強盗に遭い、命を奪われてしまったケースだ。母親はどんなに変わり果てた姿であってもかまわないから、息子が最期に知った無念や絶望をそのままの形で知りたい、その目に焼き付けたいと願った一方、父親は、息子だっていつものきれいな顔でお別れがしたいだろう、みんなにも会わせてやりたいと、エアハース社の「処置」を望んだという。どちらが正しいかという正解はない。 でも、と利惠は言う。 「私はママがキスできるようなご遺体にして帰してあげたい。(略)海外から来た遺体は想像を超える。病院に入院して死ぬのとわけが違うんだ。(略)亡くなった後の変わり方が違うんだ。きっと一生息子さんの苦しんだ顔は頭を離れない(略) 佐々さんが取材した遺族で、ゲラの段階で気が進まないと断ってきた遺族がいた。佐々さんは何度も足を運び、一緒にお茶をしながら、海外援助に出かけて亡くなった息子さんのエピソードに耳を傾けるなかで、遺族の記憶の中から、遺体で帰ってきた最も辛かったときの記憶が削除され、楽しくて幸せな記憶へと再編集されつつあることに気付く。 そして、佐々さんは、国際霊柩送還士の存在意義に思いを至すのである。「国際霊柩送還士は忘れ去られるべき人たちなのだ」と。 「エアハースは遺族にとって一番いい形で亡くなった人を連れて帰ることができたのだ。だからこそ、遺族はエアハースを忘れることができるのだろう。いつか亡くなったときの一番辛い記憶は薄れ、一番いい思い出とともに遺族は亡き人を思い出す。亡き人の心優しいエピソードを聞きながら、私は泣いた。泣いて、泣いて、利惠たちが遺族に送ったささやかな希望がそこに確かに息づいていることを感じた」 遺体ビジネス 取材の端緒 死を扱う会社 遺族 新入社員 「国際霊柩送還」とはなにか 創業者 ドライバー 取材者 二代目 母 親親父 忘れ去られるべき人 おわりに
by sustena
| 2013-09-07 21:33
| 読んだ本のこと
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