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2013年 02月 19日

山口 晃『ヘンな日本美術史』

c0155474_2336422.jpg画家の山口晃さんの『ヘンな日本美術史』(祥伝社 2012年11月10日)が滅法おもしろい!

「鳥獣戯画」をはじめとする日本の古い絵巻物や、雪舟、洛中洛外図、さらには日本美術史のトンデモ画家たち、そして西洋的写実を知ってしまった明治の日本人絵師たちの苦闘までをたどりながら、日本の画の特質を紹介した本なんだけど、美術評論家や研究者の記す日本美術史と大きく違うのは、画家ならではの視点で、ズバリ発言してること。

山口さんといえば、日本橋三越が新装オープンしたときの、いまの時代ならではの洛中洛外図・日本橋版といった趣の、時空を自在に飛び越えた絵を覚えている人も多いのではないかしらん。芸大の日本画出身と誤解されがちだけど、油画を出た人で、この本を読むと、山口さんの作風の秘密が見えてくるよう。

たとえば、「伊勢物語絵巻」のような調度品的要素の高い絵、暮らしと一緒にある絵の特徴は「毒にも薬にもならない感じ」である事、とぶちかましたあと、こんなふうに続く(えー、そっくりそのままではなくて、はしょってます)。

現代にはむしろ毒にも薬にもならないような顔をして、毒を吐くものが多いのは困りもの。たとえば、「素敵親子」が水辺でコーヒーを飮んでる絵とか、それとなく押しつけてくる「幸せ」のイメージが含んでいる毒の方がタチが悪い。それに比べると会田誠の絵などはちゃんと壜に毒と書かれているものです。下手をすると中は栄養剤かもしれない・・・なんて脱線しつつ、
「その喩えでいうと、『伊勢物語絵巻』は品質の高いミネラルウォーターが綺麗な壜に入っている、中身と壜が一致している幸せな状態です。・・・作る方も自信を持って、同じものを十年一日の如く作っている。そんな絵の在り方です。それを見ていると、逆に現代の人たちが新しい表現、自分だけの表現などと騒ぐのが、馬鹿らしく思えてきます。そんな事よりも、こちらの偉大なる十年一日ぶりと云うものの凄さを思い知らされるのです」

そして同じことをやり続けるのって簡単そうで実は非常に難しいのであーる・・・と力説する。

透視図法的「写生」、いわゆるデッサンの要素を知ってしまった近代以降の日本画家は、もはや天真爛漫に、幼児のような絵──塗りたい色しか塗らないし描きたいところしか描かない、主観に貫かれていてバランスがよい絵──はもはや描こうと思っても描けない。一度自転車に乗ってしまうと、「乗れない」ことができなくなってしまうのと同じように。

それが「伊勢物語絵巻」時代の絵師は、小さい子どものような絵の延長でいながらも、職人としての練度をあげていくことができた。こっちのほうが美しいからそう描くという純粋さでやってこれた、と嘆息する山口さん。

雪舟を取り上げた章では、「破墨山水図」や「秋冬山水図」「慧可断臂図」を見ながら、手本を貪欲に吸収しつつ、パイオニアとして前のめりにつんのめりながらいろいろなものに手をかけて掴んでしまうがゆえの雪舟の破綻や完成しきっていない部分を味わう。そして、模倣の揺らぎの中からこそオリジナリティが出るのだ、と断言する。

読みながら「お~!! だいたーん」と何度思ったことか。

だってたとえば「慧可断臂図」の絵をさして、この絵の「莫迦っぽさ」はどこからくるのだろう?なんて言うんだから。洞窟の岩肌のうねりと人物の平面的な感じが同じ画面に同居している。背景はハイビジョン放送の電波で送りながら人物の特徴は手旗信号で伝えようとしている絵・・フムフムたしかに。

洛中洛外図の「高津本」の下手さを語るくだりはこうである。

「ぱっと見で明らかにこれはだめだろうというビジュアルを持っています。斬新な構図と言えば聞こえはいいですが、これは明らかに『下手』です。まず建物の描き方からしておかしい。・・・・河の向きなども、通常は絵に奥行きを出したいと考えますから、気の利いた絵師なら真っ直ぐ縦に流さず、少し傾けるなどするはずです。右下の建物などは、軸が崩れていて、画面の外に落ちて行かんばかりです」でも、けなす一方ではない。「素人ならではの物怖じしない線と、こなれているけれども嫌味の無い表現が混ざって、これはこれで良い具合です」

そしてまた脱線し、普段絵を描かない人が「上手く描けないから」と自分の絵を恥じる一方、少し絵をかじっているくらいの「小上手い」絵を絶賛するが、こうした中途半端な「上手さ」というのは、プロから見ると一番どうしようもない。下手さを受け容れて好きに描いていた方がよほどマシ。日本の美術教育は、多くの人にトラウマとしてしか残らないものになっていると、どんどん怒りをエスカレートさせていくんである。

こんなふうに紹介しだすと、ぜーんぶ書き写ざなくてはならなくなってしまう。

えー、枝葉末節の部分ばかりをピックアップしてしまいましたが、カルチャースクールで「私見 にっぽんの古い絵」と題してレクチャーした内容をもとにしてるのですこぶる読みやすく、思わずうなずきながらイッキ読みしちゃいます。第四章の日本のヘンな絵などもびっくりするおもしろさです。

第1章 日本の古い絵─絵と絵師の幸せな関係
鳥獣戯画/白描画/一遍聖絵(絹本)/伊勢物語絵巻/伝源頼朝像

第2章 こけつまろびつの画聖誕生―雪舟の冒険
こけつまろびつ描いた雪舟/なぜ雪舟は邪道を選んだのか─「破墨山水図」/文化のオリジナリティはどこから生まれるか/ヘンなものを取り入れるのが好きな日本人/雪舟の生み出す恐るべき絵画空間─「秋冬山水図」/絵における「背骨」の太さ/莫迦っぽい絵─「慧可断臂図」/肖像画のダブルスタンダード─「益田兼堯像」との比較/人間本来の空間の捉え方/新しい空間の描き方─「天橋立図」/いい加減であるからこその自由さ/「天橋立図」は本當に下絵だったのか

第3章 絵の空間に入り込む―「洛中洛外図」
単なる地図ではない、不思議な絵/とっつきやすさの「舟木本」/王者の貫祿 永徳の凄さ─「上杉本」/上手さとは別の迫力─「高津本」/「洛中洛外図」はどこから見たものなのか/類型化から閉まれル新しさ/あるような無いような遠近感

第4章 日本のヘンな絵―デッサンなんかクソくらえ
松姫物語絵巻/彦根屏風/岩佐又兵衛/円山応挙と伊藤若冲/光明本尊と六道絵─信仰パワーの凄さ

第5章 やがてかなしき明治画壇―美術史なんかクソくらえ
「日本美術」の誕生/「一人オールジャパン」の巨人―河鍋暁斎/写実と浮世絵との両立─月岡芳年/西洋画の破壊者─田村清雄
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by sustena | 2013-02-19 00:05 | 読んだ本のこと | Comments(0)


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