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2012年 07月 29日

三浦しをん『舟を編む』

c0155474_23235447.jpg昔から辞書は好きである。会社に新明解と角川必携、自宅には広辞苑と、岩波と古語辞典と小学館の「日本国語大辞典第二版(全13巻)」があって、 むむ、この表現は・・と思うといろいろ調べてるんだけど、そのわりには言葉づかいがいい加減なのは、不徳のいたすところ、あっ、なんかヘン。
(知人の編集者からは「国語学に関係のない民間人で、日本国語大辞典なんて持っているのは人口の0.003%くらい。酔狂にもほどがあるとあきれられた)

なので、辞書をつくる人の話や、古本、本屋さん、日本語関係の本は好きなジャンルのひとつ。

とゆーわけで2012年の本屋大賞に輝いた三浦しをんの『舟を編む』(光文社 2011年9月刊)にも興味はあったんだけど、なにしろ図書館での予約待ちが1000人を超える人気作である。まぁ順番がまわってくるまで気長に待とうと思ってたら、ふふ、友人が貸してくれた。

舞台は出版社の辞書編集部。新しい辞書『大渡海』を編むために、ベテラン編集者の荒木は、第一営業部のキモイ新人、馬締(まじめ)光也をスカウトする。まじめ君と、辞書編纂に心血を注ぐ日本語研究者の松本先生、要領のいいチャラ男の西岡くん、整理能力抜群の佐々木さん、のちに女性誌編集部から移ってきた岸辺さんも加わって、『大渡海』の完成をめざすお話。

三浦しをんの作品は、これまで文楽を舞台に若手大夫の成長を描いた『仏果を得ず』、林業の世界に飛び込んだ少年の成長をテーマにした『神去なあなあ日常』を読んだことがあって、最初の20ページぐらいを読んで私は、今回の作品も、辞書づくりを通して、主人公のまじめさんが日本語の不思議さ、おもしろさにふれ、辞書を編むことの苦労を通して成長していく話に違いないと思っていたのだけれど、ちょっとだけ違った。

なんとまじめさんは、最初ッから辞書を編むために生まれてきたような人だったからである。処世術とはとんと無縁で、本の虫で、たとえば「しま」を説明するならと問われて、すぐさま「ストライプ、アイランド、地名の志摩、『よこしま』『さかしま』のしま、揣摩憶測するの揣摩、仏教用語の四魔・・・」というふうに候補を次々に挙げていく。辞書の編集こそ天職って役割だったのであります。
なので、まじめ君が下宿先の大家さんのタケおばあさんの孫の香具矢さんに一目惚れしてブキッチョな恋模様はちょっと描かれるけど(これって、新明解の「愛」の語釈を入れたかったからではなかろうか)、基本的には実にタンタンじわじわっとしたお話なのであります。立ちふさがる困難は辞書づくりという金食い虫の事業のために刊行がのびのびになること、専門用語の開設を頼んだ大学教授が主観がめいっぱい入った、使えない原稿をあげてくること、辞書の用紙として特注する紙がなかなかヌメリ感が出ないこと、入れるべき見出し語が抜けていたことが四校で発覚しちゃうこと・・・

登場人物の中では、タケおばあさんと香具矢さん、西岡くんがいい味とはいえ、どれもまぁありきたりで予定調和の世界ではあるんだけど、それでも、読後感が気持ちいい。

自分の店を持った板前の香具矢さんが「修行のためには言葉が必要だった」としてこんなことを言う。
「馬締が言うには、記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです」。

あるいは松本先生が、日本では「オックスフォード英語大辞典」や「康熙字典」のように公のお金が投入されて編纂された辞典はない。しかし、「国家ではなく出版社が、私人であるあなたやわたしが、こつこつと辞書を編纂する現状に誇りを持とう」とまじめ君に話す部分。
「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものなのです。また、そうであらねばならない。自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟、『大渡海』がそういう辞書になるよう、ひきつづき気を引き締めてやっていきましょう」

タイトルの「舟を編む」とは「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」という意味からきている。
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by sustena | 2012-07-29 23:34 | 読んだ本のこと | Comments(4)
Commented at 2012-07-30 01:57
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Cakeater at 2012-07-30 09:38 x
すごいなあ、小学館の13巻持ってるんだ。。。欲しいなあ。でも、置き場がないのが現実。足元にブリタニカ、机周りは各国語辞典で。。。
ACERの15.6インチノートまで加わったから、熱いこと。lolol
この64bitメモリ8Gノート、ネットで注文して店に引き取りに行ったら、創造を絶する薄さと大きさ(大きい!)lololol
でも、最近時間がかかってたsustena さんのページが一瞬にして開くのは快感!です。文章を書くのは今までのIBMThinkCentreavecXPの方が慣れてる分楽(ディスプレイも大きいし)ですが、ネット接続はAcerに決めました。現在、設定とフリーソフトのセットアップでブログ更新も先延ばし中。
Commented by sustena at 2012-08-01 00:59
Pくん、古本屋では二束三文だとはいえ、いくらなんでも捨てただなんて・・・。
Commented by sustena at 2012-08-01 01:01
Cakeaterさんの周りに各国語辞典!
私は大学1年のときに、ランダムハウスの英和の上下2巻と広辞苑を生協で買って帰ったときに、井の頭線の途中で紙袋がやぶけて、心底往生しました。
私もパソコンを買い換えたら、もうさくさく動いて超らくちん。もうもとには戻れないです。


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