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2012年 05月 03日

オラフ・オラフソン『ヴァレンタインズ』

オラフ・オラフソン『ヴァレンタインズ』_c0155474_23133462.jpgアイスランドの作家、オラフ・オラフソンの名前はこれまで知らなかったのだけれど、書評を読んでふと興味を覚えて借りたのが『ヴァレンタインズ』(Valentines 岩本 正恵/訳 白水社 2011年4月刊)である。手元に届くまで半年以上かかって、順番がまわったときに取りにいけなくて、さらに4カ月ほど待った。

ちょっとした行き違いや、浮気、失言などによって、夫婦や恋人たちの間にひびが入り、次第にその亀裂が大きくなっていく。そんな短編が1月~12月まで並ぶ。

たとえば1月はこんな話。

アイスランドからシカゴに出張する予定が、飛行機の遅れでニューヨークに一泊することになった男が、十年前に別れた恋人がニューヨークに住んでいることを知り再会する。しかし、彼女は翌日入院しなくてはならないこと、別れたときに妊娠していたことを打ち明ける。登場は不要だという彼女に、必ず見舞いに行くと約束する男。しかし男はシカゴ行きのフライトに乗るため早朝空港に向かうのだった。

2月
夫の浮気が原因で夫婦仲がこじれ、関係を修復しようとカウンセリングに通う夫婦。週末に田舎の家に来た二人は、雪で閉じ込められる前に市内に戻ろうとするが、その途中で、妻は夫の浮気相手の住むクィーンズに立ち寄ることを強く主張する。行っても無駄だと渋る夫だったが・・

念願のスキー旅行にやってきた夫婦。着いた当日、夫はトレーニングマシーンでふくらはぎの筋肉を傷めてしまう。妻がスキーに出ている間、よその子どもと過ごした夫がついた嘘に傷つく妻を描いた3月。

このほか、湖で子どもをのせたボートが転覆したことで、夫婦の関係が大きく損なわれる話(4月)、妻がレズビアンであることを告白し、自分に正直になりたいと別れることを決めた夫婦。妻は家を処分し、家具をネットオークションで売る手続きを次々に進めるが、ガレージセールで二人の結婚写真の入った額を見つけた夫はついに感情を抑えられなくなってしまう(5月)

いずれも無駄のない研ぎ澄まされた文章で、ひんやりした空気感が伝わってくる。

私がとくに好きだったのは、三人目の娘の夫との関係づくりに失敗した辣腕弁護士の話。亡き妻に似た女性に妻のドレスや下着を着せて情事を楽しんでいることが娘夫婦に伝わって・・・という6月。尊敬するラルティーグの写真そっくりに恋人の写真を撮った写真家が、仕事で成功をおさめたあと、自分の芸術性を表現する写真を再び撮りたいと考える7月。転職を繰り返し、ついには自分で事業をはじめようとする浪費家の夫がオークションで3万ドルで競り落とした彫像と同じものをパリで120ユーロで発見してしまった妻を描く9月。

作者のオラフ・オラフソンは1962年レイキャヴィク生まれ。アメリカのブランダイス大学で物理学を学び、86年に作家デビュー。アイスランド語と英語の両方で執筆していて、『ヴァレンタインズ』は2006年のアイスランド文学賞を受賞。
作家として活躍するばかりでなく、大学卒業後にソニー・アメリカに入社し、同社が設立したメニー・インタラクティブ・エンタテインメントの初代社長であり、現在はタイム・ワーナーの上級副社長を務めているエリートビジネスマンでもあるそうな。

この短編集でも、祖国を離れてアメリカで活躍するアイスランド人など、アイスランドとアメリカの両方が舞台になっていた。

こんなことって、日本でもよくあるよなぁ。でもきっとじっと我慢して、感情を抑えてそれっきりってことも多いかなーなど、アイスランドやアメリカが舞台なのに、身近なリアリティをもって迫ってきたよ。
オラフ・オラフソン『ヴァレンタインズ』_c0155474_22463787.jpg

工事中の資生堂本社前。1カ月ほど前から、パネルが違う絵になっていた。

by sustena | 2012-05-03 23:13 | 読んだ本のこと | Comments(2)
Commented by Cakeater at 2012-05-05 01:38 x
オラフソンって、確かタイムワーナー社の副社長ですよね。もうアイスランドには、30年もご無沙汰で、本人はアイスランド作家じゃなくて、インターナショナル作家だとインタビューに答えてますね。日本人が、英語で小説書いて日本を三十年も離れてたら、日本文学とは呼ばれないだろうと思うなあ。と思ったら、やっぱりアイスランドの辛口の批評家が、同じことを言ってる。それに大してオラフは、私はアメリカにいるアイスランド人だから、今でも根っこはアイスランドだと反論してますね。アメリカ文学ではなく、インターナショナル文学だというところが、自信とプライドのあるところを見せてます。(フランクフルトブックフェアでのインタビュー)親父さんもアイスランドの時代小説家(中世物語らしい)だそうで、ぼくとしては、そっちのほうを読んでみたいなあ。アイスランドの中世世界ってどんなんだろう?というんで、目下、そっちを検索してます。
Commented by sustena at 2012-05-06 23:21
アイスランドは昔は緑豊かだったんですよね。そのときに、中世的な妖精やもののけがいっぱいいたんじゃないかなぁ。アイスランドも行ってみたいところの一つだけど、こっちで切符を手配せずにイギリスあたりから行った方が安いらしいけど、どうなのかなぁ。


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