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2012年 01月 04日

水島昇「オートファジーの謎」

水島昇「オートファジーの謎」_c0155474_0143189.jpg東京医科歯科大学の水島昇先生の『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』(PHPワールド新書 2011年12月刊)を読む。

「オートファジー」とは、ギリシャ語の「自分(=オート)」と「食べる(=ファジー)」を組み合わせた用語で、私たちの細胞の中で起こっている大規模な分解作用のこと。

オートファジーの役割は多岐にわたる。まず、飢餓で外部から十分な栄養がとれないとき、自分自身を分解して栄養を得る。また、受精卵が着床するまで、中のタンパク質を大きく変化させるときに重要な役割を果たす。また、細胞内にゴミがたまらないように掃除をする。とくに神経細胞のように寿命が長い細胞にとってはこの浄化作用はとても大事で、オートファジーによる浄化作用はパーキンソン病にも関係しているらしいことが知られつつある。最近は長寿との関連も指摘されている。免疫や、がんとの関係でも新しい知見が次々に発表されているという。

この本は、さまざまな生命現象を語る上で欠かせない存在として、近年、急速に注目されはじめたオートファジーについて、その概要と研究の最前線を一般向けにわかりやすく紹介したもの。

第1章ではタンパク質の合成と分解についての解説から入る。
先生はまず2つの質問を投げかける。
第1問 私たちはどのくらいのタンパク質を毎日食べているか?
第2問 私たちはどのくらいのタンパク質を毎日合成しているか?

第1問の答えは、体重1kgにつき約1g。つまり70kgの人だったら約70gである。
そのタンパク質を分解・吸収してタンパク質をつくるわけだから、合成しているのは、同じくらいかちょっと少ないかなと思いきや、さにあらず。第2問の答えは約200g。えっ、食べ物以外からいったいどうやって調達してくるの? ───細胞内のリサイクルによって。この立役者がオートファジーというわけで、読者は興味津々で先生の話に耳を傾けることになる。

細胞内だって、掃除しなければゴミがたまってくる。部屋の模様替えやリフォームをするときには、それまでにあったものを捨てたり改造することが必要で、細胞が質的に変化するためには細胞の中身を大胆に入れ替える必要がある。そのために働くしくみがオートファジーなのだ。なるほど・・・・・。

ところどころハテー?という箇所もあるけれども、この手の本にしてはすこぶるわかりやすい。
とくにおもしろかったのは、受精卵の着床前の初期の胚発生における変化を解説した第4章 「細胞の性質を変えるためのオートファジー、発生と分化」の章。受精卵ではどのようにタンパク質が変化するのか、そして受精卵でオートファジーが起こっていたことを水島先生がどのように発見したのかを解説した部分。

おもしろい問いを立てることができて、それをたゆまず考え続けることができる人、問いに答えるためのアイデアを打ち出せる人こそが優れた研究者なのだなぁと思ったことだった。

第1章 オートファジー、細胞内の大規模分解系
第2章 酵母でブレークしたオートファジー研究
第3章 自分を食べて飢餓に耐える
第4章 細胞の性質を変えるためのオートファジー、発生と分化
第5章 細胞内を浄化するオートファジー
第6章 相手をねらいうちする「選択的オートファジー」
第7章 免疫系でも活躍するオートファジー
第8章 オートファジーの研究最前線
水島昇「オートファジーの謎」_c0155474_035333.jpg


by sustena | 2012-01-04 00:03 | 読んだ本のこと | Comments(4)
Commented by Lucian at 2012-01-04 10:00 x
食べる量を減らしたり一時的に絶食することでも、オートファジーを起動できるわけですね。
それでより重要なタンパク質を合成させることで、健康と長寿に貢献できることは大昔から経験的に知られていたようです。
Commented by higphotos at 2012-01-05 12:49
あけましておめでとうございます。
今年も小僧共々よろしくお願いします。

まずはご挨拶まで。
Commented by sustena at 2012-01-06 00:01
Lucianさん、絶食しないでも、6割ぐらいでも大丈夫みたい。発見するまではわからなかったけれども、気づいたら実に当り前のことばかりだったとおっしゃってました。
Commented by sustena at 2012-01-06 00:03
higphotosさん、今年の目標はまだ掲げてないけど、何かひとつテーマを決めて撮りたいなーなどとバクゼンと考えておりまーす。それと、初心にかえってカメラ片手に歩くぞー。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


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