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2011年 07月 17日

江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』

c0155474_16362681.jpg江國香織の『抱擁、あるいはライスには塩を』 (集英社 2010年11月刊)を読む。

古い大きな洋館に暮らす柳島家の、3代にわたる家族の23の物語。ひとつひとつの物語は、1960年~2006年まで、年月を前後しながら、いろいろな語り手によって綴られる。

呉服屋の番頭から独立して貿易会社を興した竹次郎と、彼がヨーロッパ遊学中に出会い結婚した亡命ロシア人の妻・絹。

その子どもたちは3人。長女の菊乃は、聡明で活発な性格。家を出て自活するが、妊娠して家に戻り、竹次郎の部下で、幼なじみの許婚者の豊彦と結婚。次女の百合は、長女とは対照的にねおとなしく家の中にいるのが好き。外で働くのは向いていないと見合い結婚するが、相手の家庭とまったくあわず半年で離婚する。長男の桐之輔は、自由な精神の持ち主。海外の放浪が長く、帰国後は父の会社に。

菊乃と豊彦の子は4人。
長女・望は菊乃が家を出て生活していた間に、別の男性との間に宿した子。母に似て活発で、中国に留学し、英国人のパートナーを得る。次女の陸子は作家に。長男の光一は、大学で出会ったフツーの女性と結婚。次男の卯月は、豊彦と秘書の麻美との子。こんなふうに4人の子のうち二人が実の親が違っても、この家族にとっては、それがごく自然のようである。

この10人の大家族は、世間の常識からはちょっとはずれていて、たとえば冒頭のエピソードで語られるのが、卯月の母の麻美さんの意向で、光一・睦子・卯月の3人が小学校に通うことになり、結局はなじめず、元通り家庭教師に勉学を習う生活に戻る話。

江國香織の小説では、人間関係や家族関係などちょっぴり風変わりな登場人物がよく出てくるけれども、今回のような浮世離れした設定もないようなぁ・・・・と思って読み進むと、このヘンテコな家族が実にのびやかで、自然で、ああ、わたしもそうなんだよねぇと、いろんな部分で共感できることに驚く。

そして、一話ずつ少しずつ家族の輪郭が明らかになり、その家族がすぐ目の前でおしゃべりしているのを聞いているような気になるうち、大家族が一人また一人と、病気でなくなり,独立して家を出て行くのに立ち会うことになる。

抱擁し、頬をくっつけあう挨拶をし、「かわいそうなアレクセイエフ」と声をかけられれば、「みじめなニジンスキー」と返事をする。(皿に盛られた)「ライスには塩を」という家族だけの合い言葉。

恋愛小説と同じようなことが現実にあると思っていたなんて、私はなんて物知らずだったことかと、不幸な夫婦生活を送った百合は言う。一方で、書く人となった睦子は「人は愛し、人は憎む。人は出会い、人は別れる。世の中が本のなかと似ているとわかってから、私はとても自由になった」と、感慨にふける。

いくつもの人生が重なり合い、すれ違って、深い余韻を残す。
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by sustena | 2011-07-17 14:12 | 読んだ本のこと | Comments(2)
Commented by esiko1837 at 2011-07-17 19:28
この本、少し前に新聞の書評欄で見て、読みたくなったものでした。
いつものように新聞を畳んだ途端に忘れてしまってそれっきりなっているので、また後を追って図書館で探してみようと思います。
「きことわ」よりはずっと長そうですね。
どっちも、人恋しくなる年齢の人が読みたくなる本のような気がします。
Commented by sustena at 2011-07-17 23:12
私はタイトルを見ただけで、読まなくちゃと思いました。江國さんは人気があって、図書館で7カ月待ち。けっこう読みでがありますけど、一話ずつ味わえばいいし、おしまいのほうは、ああもうちょっとで終わってしまう・・・と少し寂しい気持ちになりました。


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