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2010年 11月 07日

中島京子「小さいおうち」

c0155474_912546.jpg中島京子の「小さいおうち」(2010年5月刊 文藝春秋)を読む。第143回の直木賞受賞作である。

12歳で山形から上京し、女中奉公を始めた布宮タキが、戦前から戦中にかけて仕えた、東京郊外の小さな家に住むサラリーマン一家。玩具会社の重役と、その後妻となったタキより8歳年上の平井時子と一人息子の恭一。晩年、タキは彼らとの思い出をノートに書き綴っていく。

戦前の東京郊外の中流の暮らしがどのようなものであったか、オリンピック招致で盛り上がったり、戦争が始まっても、一般庶民がいかにのんきであったか・・・・。

そんなタキの回想録を、時折タキのもとにやってくる甥の次男の健史は、現代ッ子らしい感想を述べたり意見する。おばあちゃんは間違っている、昭和10年がそんなにウキウキしているわけがない。美濃部達吉が天皇機関説問題で弾圧されて、その次の年は青年将校がクーデターを起こす2.26事件だっていうのに!ぼけちゃったんじゃないの、なんて具合に。

タキの手記は、タキの死によって唐突に終わってしまう。この小説の最終章では、健史がそのあとに何が書かれようとしたのか、タキが書こうとして書かなかったことは何かをたどり、深い余韻を残す。

この小説のおすすめポイントを3つ挙げてみようか。

ひとつは、タキの回想録を読みながら、あの時代をともに生きたような気分にひたることができること。作者が当時の新聞や雑誌を調べまくって見つけたエピソードなども楽しい。

もうひとつは、タキの最初の奉公先である小説家のコナカ先生が、繰り返しタキに語って聞かせたカーライルとJSミルの逸話が通奏低音のように効いていること。ミルの女中は、ミルの親友・カーライルが心血を注いで書き上げた大切なな論文を誤って暖炉にくべてしまう。しかし、その原稿が灰になってしまったおかげで、ミルは親友に先駆けて論文を発表することができた。さて、女中は本当に間違って論文を燃やしてしまったのだろうか、それとも、主人の心情を汲んで行動したのか? 

そして、タキのつくる料理がおいしそうなこと!
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by sustena | 2010-11-07 22:01 | 読んだ本のこと | Comments(0)


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