2010年 07月 16日
新国立劇場で上演中の蓬莱竜太・作 鈴木裕美・演出の「エネミイ」がおもしろい。以前ここで見た蓬莱竜太の「まほろば」のストーリーテラーぶりが気に入って出かけたのだが、なかなかの才能であります。 千葉の郊外に住む一家。父親(高橋長英)は定年を迎え、ヨーロッパ旅行を楽しみにしている。母親(梅沢昌代)はフラメンコの稽古に夢中、長女(高橋由美子)はキャリアウーマンで婚活の真っ最中。その弟(高橋一生)は、印刷会社で派遣切りにあい、いまはコンビニでアルバイトをしている。といってもシフト表をつくることを頼まれているぐらいで、家でぶらぶらしながらネットの対戦ゲームにはまってる。対戦ゲームでゲットしたアイテムを、友人(粕谷吉洋)が売りさばき小遣い稼ぎをしている毎日。 そこに父親の学生時代の友人だと名乗る二人(林 隆三・瑳川哲朗)が突然訪ねてくる。しかし、父親はなぜかあまり嬉しそうではない。実は二人は元活動家で、今は岐阜で有機野菜をつくっていて、三里塚で3日後に開催される有機農業の将来を語る会の出席かたがた、40年前に交わした約束を果たそうとやってきたというのだ。 二人は、いいトシをした息子がぐうたらしていることに意見をする。なんで派遣切りにあって戦わなかったのか!手応えを見つけるために、三里塚の会に来たらどうか。何しろいまだに学生運動のノリの二人。空気も読まず、主張を押しつけようとする。姉の婚活にも疑問を呈する。いったいコンピューターでどうしてふさわしい相手が見つかるというのだ? 自分で出した条件の範囲内でなんて、却って出会いの幅を狭めているだけじゃないのか?? 広い庭を家庭菜園にしたらいいとか、強引な二人に、一家の生活のペースは大いに狂ってしまう。 もっとも、彼らの主張は全然弟たちには伝わらない。三里塚?なんですか、それ。闘争? いつ? だって今空港あるじゃん───って具合である。 話が進むにつれ、父親とこの二人の活動家とは、40年後の再会を誓ったというよりは、学生運動と袂をわかつことを決めた父親の言い分と、理想を夢見て活動を続ける二人が、それぞれどんなオトナになっているのか、かつて言ってたことが正しかったかどうか、見定めようじゃないかってことだったんだとわかる。 父親がやっているのは、リストラをする理由を探し出して、リストラを言い渡すことだ。人を踏み台にして、こんな家に住んでいるんだ、ヨーロッパ旅行の飛行機は成田から出るんだぞ、と叫ぶ活動家。 学生運動で唾棄すべきとされた小市民的幸福が蔓延してるいまの時代。でも、やさしい戦わない若者たちも、 派遣切りや不安定雇用で、宙ぶらりんな状態にいる。コンビニのシフト表をつくるのだって、働かなくちゃならない人のそれぞれの事情を抱えこんじゃうと、なかなかムズカシイ。そんなに昭和オトコが言うほど、物事は単純じゃないのだ。 はたして今の敵はどこに?? それぞれのキャラクターがかなり戯画化されていて、やりすぎじゃない?と最初のうちは思っていたのだが、そのクサさ、不自然さは、いかにも活動家然とした二人が登場するや、実にぴったんこマッチしてしまう。 ゴキブリを追いかけるシーンや、母親のフラメンコシーンが最高である。高橋一生は、ナイーブな今の若者を演じきってマル。 ひとつ疑問なのは、冒頭の学生運動の映像。当時の資料映像なのか、真似て撮ったのかということ。看板の文字が当時の書体とだいぶ違うような気がしたのよね。
by sustena
| 2010-07-16 00:50
| Theatre/Cinema
|
Comments(10)
Commented
at 2010-07-16 06:59
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
ナイーブは「世間知らず」という本来の意味と考えて宜しいでしょうか。
0
Commented
by
Lucian
at 2010-07-16 23:07
x
Commented
by
sustena at 2010-07-16 23:31
P君、民青と革マルや社青同など、セクトによっても字が違ってたんですよー。ビラなど、立て看やビラなど゛中身は読まないで、文字ばかりしげしげ眺めてました。大学のときに入った女子寮にヘルメットがごろごろあって、ギョッとしました。大昔の話だわー。
Commented
by
sustena at 2010-07-16 23:33
iwamotoさん、 心やさしい、ひ弱なアマちゃんだけど、それなりに一所懸命半径数mのことをじくじく考えているいまの若者って意味で書きました。
Commented
by
sustena at 2010-07-16 23:35
Lucian さん、闇の支配者ですかー。グローバリズムというお題目を唱えるだけで、頭を使わなくなったひとたちかなーと。
Commented
by
ken_kisaragi at 2010-07-17 12:23
フラメンコ踊る奥さん! 退職後ピースボート<世界一周>が夢のおとうさん!
石投げると当たる位沢山居られますね(笑) 学生運動の残党に職無しの若者・・・。 面白そうなコンテンツですね。 ・・・老後のビジョンも展望も無い自分???コイツは「エネミイ・敵」ですね(爆)
Commented
by
coco
at 2010-07-18 14:34
x
パンフレットに渡辺眸さんが記載されていた、ということは
写真は当時の本物だと思います。 渡辺眸さんは東大、安田講堂の攻防戦の時に内部から写真を撮っていた 唯一のカメラマンさんだからです。 有名な「連帯を求めて孤立を恐れず~」という安田講堂内部の落書きの写真も使われていましたね
Commented
by
sustena at 2010-07-19 22:31
ken_kisaragiさんのまわりには,石を投げたら当たるくらいいるの?? 私のまわりには、この学生運動家っぽい昭和男がけっこういるので、とても楽しめました。
Commented
by
sustena at 2010-07-19 22:32
cocoさんこんにちは。なるほど、渡辺眸さんの写真でしたか。私は同世代ではなくて、もちっとあとのタテカンの印象が強かったのかも。
|
アバウト
カレンダー
カテゴリ
全体 GRDIIレッスン LX3 カメラ・レンズ・写真レッスン 看板・サイン・ポスター Theatre/Cinema/Music Art/Museum 読んだ本のこと 食べ物 旅 小さな自然 まち散歩 つれづれ 以前の記事
最新のコメント
お気に入りブログ
みてみてリンク
タグ
銀座(597)
花(373) 鳥(226) GRDII(189) ランチ(172) ショーウィンドウ(164) 顔(133) 酒肴(88) 京都(88) モノクロ(83) 公園(81) 西荻窪(76) 空(74) 工事中(57) 桜(52) 中国(48) 建築(47) 新宿(47) 夕景(44) 渋谷(41) 記事ランキング
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||