2010年 05月 09日

伊藤礼『狸ビール』

c0155474_13102093.jpg先日読んだ伊藤礼さんの文章がすてきだったので、もっと伊藤さんの本が読みたくなって図書館から2冊借りてきた。そのうちの1冊が『狸ビール』(講談社文庫 1994年6月 親本は1991年5月刊)

この本は、伊藤さんが鉄砲をもって野山を歩き回っていた30年間の思い出--キジやコジュケイやヤマドリやカモのこと、伊藤さんに猟を指南したハマグチマタイチ氏のことや、やはり猟をした多摩丘陵にすむ河上徹太郎氏のこと、猟犬たちの思い出など、いずれも心にしみる、そしてめちゃくちゃおもしろい猟をめぐる24のエッセイを集めたもの。タイトルは、狸はビールに合うと、狸を食べ過ぎて狸くさくなって困ったという冒頭の話からとっている。

タイトルだけちょっぴり拾ってみようか。

猟案内人カナザワクニオさんの命令で大木の股までのぼったこと
とつぜn出現した鳥獣保護員につかまらないですんだはなし
製品番号5696という銃に関するはなし
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長ながしき追跡のはなし

ね、おもしろそうでしょう??

伊藤さんが猟をはじめたのは昭和30年代初期。そのころには昔からの狩猟家がたくさん生きていて、彼らに手ほどきをしてもらいながら狩猟文化の片鱗を垣間見ることができた。鉄砲うちになったのは、自然の野山や鳥獣に触れる喜びに加えるに「狩猟文化に対するあこがれがあった」と伊藤さんは書く。大学を出たあと、職にもつかず親のすねをかじりながら、伊藤さんは猟のシーズンになると野山を歩いていた。タダモノはなないのである。(関係ないけど、碁にものめりこんで中国まで碁をうちに行ったりもしているらしい)

どの話もおもしろいのだが、なかでもシミジミするのは愛犬のことを綴った話である。伊藤さんの飼った代々の犬は、チビ(もらったきたとき小さかったからこう呼んでいたが、成犬になってからもあまり大きくならなかった)、デカ(前の犬が大きくならなかったので大きくなるように名づけた)、チュウ(チビとデカの間ぐらい)、ダンディの4匹。

猟犬はどんなに深い山のなかに入りこんでも、自分の居場所を主人に分かるようにしておかなければならない。

「若いころのチビはときどき山にはいったままどこにいるのか分からなくなってしまうことがあった。チビが山のなかに入りこんでいつまでも出てこないと、私は女のひとのデパートの買物のおともをして、いつまでも待たされているときのような気持になった。チビも牝犬だから同じようなものなのかもしれない。ここは心をひろくして待っていようと思うことにしていた」

一方ダンディは連絡のよい犬だった。姿を消してしばらくすると、全速力でもどってくる。そして伊藤さんの脛に横腹をこすりつけてまた勢いよく走っていく、ときには、脛めがけて体当り。ちゃんとタッチしたというつもりらしいのだ。
「私はいちど、ねらわれた右足をサッと引いた事がある。私の右足に身体をこすりつける予定だったダンディは、きゅうに予定がかわったので、よろけてひっくりがえりそうになり、うらめしそうな顔をした。ダンディはその後工夫をして、私を素通りして安心させたあと、うしろから突進してきて左足のふくらはぎに身体をぶつけるようになった。なんとしてでも私と身体をこすりあわせたいようだった」
ダンディはこうして主人と連絡を密にしながら、獲物を探す。でも日本の自然は痩せ衰えてきていた。
「私はダンディを騙しているのかもしれないと思って気持が滅入った。もう日本じゅうに鳥たちはいなくなってしまったような気分になっていた」
こうして伊藤さんは猟をやめ、狩猟免許証の申請はせず、鉄砲を処分する。
「私が猟をやめた翌年、自分も不用になったと思ったわけではなかろうが、平仄をあわせたように、ダンディは天国に行ってしまった。それで、しかたなくなったので、私はこういう思い出話を書いて、昔をしのんでいるのだ」。
講談社エッセイ賞受賞。

写真は本日夕方に見たゴイサギ。
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D40+18-135mm

by sustena | 2010-05-09 12:03 | 読んだ本のこと | Comments(4)
Commented by ken_kisaragi at 2010-05-10 01:01
相剋の森」「邂逅の森」「氷結の森」のマタギ三部作読んでスゲぇ〜と感心致しましたが。
銃なんて物騒なモノ読むには、素直で軽妙な文章でないとキツイですね。
伊藤礼、読んだ事無いですけど、記事読ませてもらうと植草甚一を思い出しました(笑)

・・・結構近接撮影でしょうか?池面がボケず、映り込みが美しいですね。
Commented by sustena at 2010-05-10 23:07
距離は2.5メートルぐらいかな。望遠端で撮ってノートリなので、けっこう近いです。数年前、新潟と山形の境のあたりに住むマタギを取材に行って、単に猟友会のひとみたいだったので、ちょっとガッカリしたことが・・。
Commented by higphotos at 2010-05-11 14:01
とてもクリアにサギが撮れてますね。
水面と写りこみも良い感じ。
緑がとてもキレイな季節です。
Commented by sustena at 2010-05-11 22:57
ありがとうございます!このレンズは暗いし、ボケがきれいじゃないし、あまり好きじゃないんですが、なんといっても私の持っている中ではいちばんズームがきくので、たまの公園散歩に連れ出します。以前は仕事はこれ1本だったけど、tamにその座を奪われたのです。


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